フォーカス 私たちの実践 身体拘束を見直す 愛媛生協病院 拘束に”慣れていないか”の指摘 患者に寄り添う看護を学ぶ
認知症患者の多い愛媛生協病院四階病棟では、術後の事故防止などを目的に、患者を拘束することが増えていました。「一時的であるべき身体拘束が漫然と続いていないか」と業務を見直し、拘束廃止に向けてとりくんでいます。
同院は八〇床の小規模病院ですが、地域包括ケア病床もある地域密着型の救急指定病院です。四階病棟は、整形外科と外科を中心に小児科、内科、精神科、急性期にも対応する混合病棟です。
入院患者の高齢化とともに、認知症も増加。ドレーンや点滴ルートの管理、転倒転落防止など、安全を優先し、身体拘束に頼るケースが多くなっていました。
そんな時、「身体拘束に慣れて違和感を持たなくなり、容態が落ち着いても拘束を続けていないか?」という声が出ました。副主任の福田和歌子さんは、見直しのきっかけを振り返ります。
拘束される気持ちを考える
「身体拘束の学習を通じて“患者の尊厳”を学び、看護に反映させる」「身体拘束廃止を目標に検討し、拘束解除にとりくむ」を、病棟の目標に掲げました。
はじめに職員自身が身体拘束の模擬体験を行いました。
「拘束感は少ないが、見た目が恥ずかしい」(拘束衣)、「拘束感が強く、“外さねば”と興奮を助長させる」「手錠をかけられたような感じ」(抑制帯)、「外したくなる」「装着したまま車いすから立ち上がると簡単に後ろ向きに転倒する」(安全ベルト)などと実感しました。
体験をふまえ、「自分や家族が拘束されたら抵抗がある。拘束ゼロに挑戦しよう」と議論しました。
事例検討から拘束廃止へ
厚労省の「身体拘束ゼロへの手引き」を学び、具体的事例を検討し、拘束を減らしていきました。
八〇代のAさん(女性)は足の骨折で入院。認知症があり、一回目の術後は自らドレーンを外してしまい、再手術となりました。またドレーンを抜かないよう、手術直後は拘束衣、拘束帯を使っていました。しかし、上半身は健康で尿意もはっきりしていたため、起き上がろうとしたり、事態を理解できず困惑したりしていました。
そこで拘束をやめ、ドレーンや点滴を布などで巻いて本人の目に触れないようにしました。日中はできるだけ車いすで過ごし、トイレの訴えがあれば、すぐ誘導するようにしました。次第にトイレのリズムが把握でき、術後も悪化させず退院することができました。
Bさん〈大腿骨骨折術後、認知症あり。日常生活は車いすレベル。眠剤内服、夜中に一人でトイレに行こうとする。拘束帯、ベッド柵など使用〉↓離床センサー付きベッドにし、柵は一部外し、夜中に起き上がったりベッドから降りたりしたら、すぐ対応する。日中・夜間ともに排尿パターンを把握し、職員で共有し、トイレ誘導。
Cさん〈認知症あり。オムツを外し不潔行為を繰り返す。尿意・便意の訴えなし。拘束衣は自分で脱いでしまう〉→「オムツを外すのは、排泄後に不快感があるからでは」と話し合い、排泄リズムを把握してトイレ誘導。夜間の拘束衣も廃止。次第に落ち着いた。
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「カンファレンスや転倒ラウンドを繰り返し、多職種で知恵を出し合いました。拘束をやめて安定した患者さんの姿を見ると、拘束は不自然なことだと実感します」と看護師の新倉利菜さん。
「監視」から「寄り添う」へ
同病棟では、二〇〇七年に病棟内のミニデイケア、〇九年に入院中の認知症患者を対象に認知症デイケア「おひさま倶楽部」(不定期)を開設しました。一一年度には「転倒転落チーム」をつくり、認知症ケアにとりくんでいます。
昨年度は、療養環境の改善を目標に「生活向上チーム」を結成。チームが開いた演奏会では、普段は五分と座っていられずに徘徊する患者が、ハーモニカに合わせて歌い、手をたたいて楽しむことができました。福田さんは、「トラブルがないか『監視』するのではなく、『そばに寄り添う』『見守る』ことが本来の看護だと気付きました」と話します。
いまでも、スタッフの目が届かない時間帯などに安全ベルトなどを使うことがあります。「それでも、拘束は当たり前ではなく、短時間にとどめる、という意識が広がりました。こまめにカンファレンスをする習慣も根付いてきました。拘束ゼロをめざしていきたい」(福田さん)。
(民医連新聞 第1598号 2015年6月15日)