里子・里親 文・朝比奈 土平 (6)アキラとの面会
里親が決心し、親族も応援するとなったら、大事なことは、本人と里親が人間同士認めあうかだ。初日には一瞬しか先生から離れなかった彼は懐(なつ)いてくれるだろうかと、帰りのドライブインでラーメンをすすりながら夫婦で顔を見合わせた。
それから水曜に僕が、週末には夫婦で、初対面の三月から七月まで、車で一時間ほどの乳児院に通った。
ちなみに、初対面の日から里親委託までの期間は千差万別で、客観的な基準があるわけではないようだ。
二度目は水曜日で僕一人だった。
先生は彼に「パパが来てくれたよ」と、僕には「困ったらいつでも内線で呼んでください」とにこやかに部屋を去った。「パパ」なんて呼ばれたことも呼んだこともなかったので変な感じがしたが、もっと異変を感じていたのは一歳五カ月ヨチヨチ歩きの本人だった。先生が扉を閉めるとその扉に突進した。後ろにはよく知らないオッサンが座っているという状況が恐怖なのか不安なのか、そこから号泣が始まった。
三〇分近く泣いてからあきらめたのか、畳にぽつんと座って所在なげに畳の目をなでて、小さな埃を捕まえてはこちらに見せてきた。
それから三回目くらいまでは面会時間は一時間だった。次もその次も彼は泣いたけれども、それは前回よりも短い時間であった。お母ちゃんが居たせいもあっただろう。
だんだん面会時間がのび、GWには一日を過ごすようになると、園庭遊びや外出もするようになった。
園庭遊びでは他の子どもたちと同じ場所で遊ぶのだけれど、その時たくさんの子どもたちとアキラとの服装や足もとの違いにも気がついた。
みんな裸足で遊んでいるのにアキラは靴も靴下もはいていた。面会用のきれいな服を着ていたのだ。『はだしのゲン』のたくましさに憧れるので、裸足がいけないとは思わないが、僕の頭には三〇年も前のブルーハーツの歌がリフレインするのだった。
その何回か後に、先生に「アキラ君、面会日の朝の服を見るとなにか嬉しそうな顔をしますよ」と励ますように言われた。
(民医連新聞 第1598号 2015年6月15日)
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