NPT再検討会議 「会議は決裂」したが―― 世界の主流は“核廃絶” 被爆70年を転換の年に 日本原水協 安井正和事務局長に聞く
初めて実戦で核兵器(原子爆弾)が使用されてから七〇年の今年、五年ぶりにニューヨークでNPT(核不拡散条約)再検討会議が開かれました。会議ではわずかな数の核保有国の反対で、最終文書の合意に至りませんでした。原水爆禁止日本協議会(日本原水協)の安井正和事務局長は「“核兵器廃絶”の声が確実に世界の主流になっている」と話します。日本原水協の代表団一〇五八人(うち民医連から約二〇〇人)は、「核兵器全面禁止」を求める署名六三三万筆超を国連に提出しました。(丸山聡子記者)
今回の会議や行動で実感したのは、「核兵器は非人道的な兵器であり、全面廃絶に向け一刻の猶予も許されない」という強い意思です。これを拒否している、米、英、仏、ロ、中の核保有国五カ国と、「核の傘」に依存する日本政府が世界の流れに逆行していることも、浮き彫りになりました。
8割の国が「全面廃絶」求める
いまだ世界には一万六四〇〇発もの核兵器が存在し、うち九割はアメリカとロシアが所有しています(二〇一四年現在)。
三月、ロシアのプーチン大統領は「クリミア軍事介入の際、核兵器使用の準備があった」と発言。核兵器が存在する限り、いつでも使用できると見せつけたのです。
これに対し世界で広がっているのが、「核兵器は、ひとたび使用・爆発すれば取り返しがつかない惨禍を生む。人道上許されない」「そのための唯一の解決策は全面廃絶だ」という声です。二〇一二年四月に一六カ国が発表した「核兵器の人道的影響についての共同声明」に、今回の会議では日本を含む一六〇カ国が賛同しました。国連加盟国の八割を占め賛同国の数としては過去最大です。
四月二七日の再検討会議開会にあたり、潘基文(パン・ギムン)事務総長は「核兵器の廃絶は国連にとって最優先事項」と強調。各国の指導者に「国家安全保障は、核脅迫の影の外でのみ達成しうる」と呼びかけました。そして、核軍備撤廃の緊急性を疑う人には、被爆者の体験を聞いて、核兵器が何をもたらすのか知るべきだと求めました。
会議では、軍事同盟に属さない非同盟諸国会議(一二〇カ国が参加)が核兵器を禁止し廃絶するための包括的な条約の交渉開始を提案。多くの国が「核兵器禁止条約」を支持しました。一方、核保有国は、最後までこの声に背を向けました。
しかし、すでに二〇一〇年の会議の最終文書で「核兵器のない世界の平和と安全の達成を追求する」と合意しています。にもかかわらず非同盟諸国会議が提案する「話し合いの場」までも拒否し、自ら合意した約束を履行していないのは核保有国です。このことが今回の会議で明確になりました。
「核廃絶」の意思示す
世界の流れを「核兵器廃絶」へとすすめてきた力は、被爆者自身による被爆の実相の証言と訴えであり、署名などの草の根の運動です。
「核兵器の全面禁止」を求める六三三万筆を超える署名は四月二六日、国連上級代表のアンゲラ・ケインさんと、今回の再検討会議議長を務めたタウス・フェルキ大使に手渡しました。ケインさんは、「圧倒的多数の国連加盟国は、核兵器の存在こそ人類と文明への最大の危険であり、緊急に核兵器廃絶にとりくまなければならないと再確認している」、フェルキさんは、「署名は、核兵器は廃絶されねばならず、核保有国を含む各国政府の優先課題でなければならないというシグナルを発信している」と語りました。
潘事務総長も会議で署名に触れ、「原則的な努力を全面的に支持する」「すべての国に、市民社会グループとの関わりを深めるよう促したい」と述べています。
日本政府の姿勢と私たちの課題
こうした中、日本政府は、世界から批判を浴びています。いまだにアメリカの「核の傘」に寄りかかり、「核抑止論」に固執しているからです。一六〇カ国が賛同した共同声明にも当初は賛同せず、被爆者団体や広島・長崎両市長、国外からも抗議が寄せられました。その結果、一三年に賛同しましたが、政府代表は「核兵器全面禁止」を口にしません。インドネシアの代表は、「ただでさえ乏しい進展が“核依存国”によって蝕まれている」と批判しています。
安倍政権は集団的自衛権の行使を容認し、戦争立法の強行でアメリカの戦争に参加できるようにしようとしています。世界中で戦争するアメリカが核兵器の実戦配備も選択肢としている以上、そこに日本が参加すれば、核兵器の使用に荷担することにもなりかねません。戦争立法は、核兵器廃絶の流れに逆行しています。
私たちはニューヨークで国際シンポジウム「ともに核兵器のない世界へ―新たな地平を開こう」を行いました。核保有国と核に依存する国に暮らす市民が、自国政府の姿勢を「核兵器の全面禁止」に変えていかなければなりません。そのために行動しましょう。
次は夏に開かれる原水爆禁止世界大会です。日本には被爆の実相を語り、核兵器廃絶を広げてきた運動の蓄積があります。被爆七〇年の今年を核兵器の全面廃絶への転換の年としましょう。
核兵器で維持する“平和”はあり得ない
竹内啓哉医師(全日本民医連原発事故被ばく対策本部長)
今回のNPT再検討会議には、二〇〇人を超える民医連職員が署名を持ち参加しました。「核兵器をなくそう」との呼びかけに集まった草の根からの思いを、国際政治の場に届け、訴えたのです。
現地でも署名を集め、一万人の世界の仲間たちとともに行進しました。一〇〇筆を超える署名を集めた班、通行人に見向きもされなかった班(でも二筆は集めた!)など様々でした。「ロシアが核兵器をなくせば、アメリカも考えても良い」と語る子連れの男性にも出会いました。デモ行進では、手を振って応援してくれる人もいれば、無関心に眺めるだけの人も。
核兵器と人類は共存できません。この事実に異議を唱える人は少なくても、「核兵器廃絶」となると、「抑止論」「段階的廃止論」などの立場の人々も多数います。一方で核兵器の非人道性を糾弾する国々は一六〇カ国にも増え、着実に核保有国を包囲しています。「このような政治の動きを署名が後押ししている」。国連代表たちの力強い言葉です。
核兵器の残虐さ。放射線被害の肉体的、精神的な苦しみ。七〇年経っても訴訟をせざるを得ない被ばく体験者たちを現場で見聞きしている私たち民医連職員こそ、核兵器を突き付け合いながら維持する「平和」がいかにもろく危ういものであるかを訴えていく必要がある。そう感じた一週間でした。
(民医連新聞 第1597号 2015年6月1日)