日本中をブラック企業にする 高度プロフェッショナル制度=残業代ゼロ法案
四月三日、安倍内閣は労働基準法の改悪法案を閣議決定し、国会に提出しました。働く人の健康にかかわる重大な見直し「高度プロフェッショナル制度」が盛り込まれています。研究開発者やアナリストなどの「特定高度専門業務」を対象に、効率よく働ける環境を整備する、との説明ですが…本当は「残業代ゼロ」「定額・働かせ放題」と呼ぶにふさわしい改悪です。(木下直子記者)
「高度プロフェッショナル制度」とは労働者を保護するための労働時間規制から一部の人を除外する制度です。これまで何度か導入が狙われてきた「ホワイトカラー・エグゼンプション」です。
たとえば「一日八時間、週四〇時間を超えて労働させてはならない」という八時間労働制や、休憩や休日の付与、三六協定の締結、時間外や休日の割増賃金などが同法の対象の労働者には適用されなくなります。
法案要綱を審議した労働政策審議会では労働者代表委員が強く反対し「認められない」という意見が答申にも付きました。ところが厚生労働省はその意見も踏み越え、法案化したのです。
■今後拡大がねらい
高度プロフェッショナル制度の対象になった人は表のような働き方になります。対象になるのは研究開発や市場分析など「特定高度専門業務」に従事する労働者。職務が明確に定められている、賃金水準が平均賃金額の三倍(想定額は一〇七五万円)を上回る、本人が同意しているなどの条件を満たす、労働人口の数%程度の層。しかし今後、この対象が拡大されてゆく可能性が多分にあります。
もともと経済団体は、年収四〇〇万円超から対象にすると提案していました。審議のなかでも将来は対象を拡大するよう強く要望。労働時間規制を「岩盤規制」と呼び、風穴を開けたい安倍内閣も乗り気です。「とりあえず通すためには、対象が少ないが、ぐっと我慢して」と経営者の会合(日本経済研究センターの会員会社・社長朝食会)で塩崎恭久厚生労働大臣自身が発言しています。また、ホワイトカラー・エグゼンプションを導入済みのアメリカでも制度導入後に対象が拡大されています。
労働者派遣法の例をみても容易に予測はつきます。労働者派遣法でも導入時は職種を専門職に限定していましたが、法改正で対象を拡大、非正規労働を爆発的に増やしてきたのです。
■防止策は有効か
法案は、働かせ過ぎの防止策として制度の導入にあたって「健康・福祉確保措置」を講じるよう求めています。次の三点からどれか一つを導入すれば良い、というものです。
(1)労働時間が二四時間を過ぎる前に、一定時間以上の休息時間を与える。かつ、深夜業の回数制限、(2)在社時間+社外で働いた時間に上限をもうけ、一カ月または三カ月の合計が一定の時間を超えないこと、(3)休日は四週間を通じ四日以上かつ一年間を通じ一〇四日以上与えること。
一見、歯止めになるように思えますが、対象になる労働者は先述のとおり労働時間規制で保護されないため、休日なしの労働や連日の長時間労働を強いられる危険性があります。
厚生労働部会でこの法案について話し合われた時、「高度プロフェッショナルで残業代ゼロ制度の対象になれば、年間五日間有給休暇をとらせさえすれば、毎日一六時間勤務、三六〇日連続勤務も合法になる」と、厚労省が説明し、周囲が絶句した、という話も。
■監督官も「反対」
制度の影響は―。こんな調査があります。「労働基準監督官の多くが、残業代ゼロ制度に反対」。労働基準監督官は、働く人の安全や労働環境改善のために働く専門官。労働基準監督署やハローワーク職員などの労働組合(全労働)が二〇〇〇人の監督官に行った緊急アンケートです。制度に反対が五四%、賛成はわずか一三・三%でした。
制度が導入された場合の影響を「長時間・過重労働がいっそう深刻化する」と予測する回答が七割を超え、政府が説明するような効率的な働き方と結びつけた監督官はわずかでした(図)。
ブラック労働が違法でなくなり、健康被害や過労死を促進させる大改悪です。
(民医連新聞 第1596号 2015年5月18日)
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