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民医連新聞

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「知らなかった」では遅い 戦争する国のリアル 元自衛隊員が発言する理由

 自民・公明両党は、平和安全法制の全条文に合意し、国会での審議につきすすんでいます(一三日現在)。その内容は、“平和”や“安全”とは対極の「戦争立法」です。政府が準備している法案とは? また、実名を公表し戦争政策に反対する元自衛隊員・井筒高雄さんのお話から考えます。(木下直子記者)

戦争立法の内容とは

 「戦争立法」関連法案は、新設する「国際平和支援法」と、これまで存在していた一〇の海外派兵法や有事法制をまとめて改定する一括法「平和安全法制整備法」の二本で構成されます()。
 国際平和支援法は、アメリカ軍が主導するあらゆる多国籍軍への自衛隊派遣を、形だけの国会承認で政府にゆだねてしまう「海外派兵恒久法」です。また一括法は、これまで憲法九条に歯止めされていたアメリカへの戦争協力をどんな時も可能にします。

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集団的自衛権…政府次第

 集団的自衛権は、自分の国が攻撃されていなくても、他国の武力行使に参加することです。昨年七月に安倍内閣が憲法解釈を変える閣議決定をするまでは、平和憲法を持つ日本がこれを行使するなどありえませんでした。
 この集団的自衛権の行使を「武力攻撃事態法」に記載。しかし発動条件はあいまいで、政府の考え次第で際限なく広がります。

いつでもどこでも何でも

 これまでアフガニスタンやイラクへの自衛隊の派兵は、期限を定めた特別措置法で行われましたが「国際平和支援法」の新設で、随時・恒久的に派兵が可能に。
 また「周辺事態法」を「重要影響事態法」として改定しますが、その際「我が国周辺の地域」や「周辺事態」の文言は消去。世界中に自衛隊を向かわせるために地理的制限を取り払います。
 また、行き先は「非戦闘地域だけ」という制限も解除。「戦闘現場」でも活動します。
 「後方支援」はれっきとした戦闘行為ですが、これまで政府は「憲法違反の武力行使」だとみなされぬよう、弾薬の提供や出撃前の戦闘機への給油などは避けてきました。しかし安倍首相は今年三月「戦闘現場でなければ、どんな内容の支援でも武力行使でない」と国会で答弁。自ら引いた一線も踏み越えようとしています。

武器使用を拡大

 国際平和協力法(国連PKO法)を改定し、PKO活動のほか人道支援や治安維持(安全確保)活動を新たに位置づけ。武器使用基準を大きく拡大。「任務遂行」のための射撃を認めます。
 住民等の「警護」任務を規定し「その他特定の区域の保安のための監視、駐留、巡回、警護」も行います。紛争地で他国部隊の要請に応え、外敵の攻撃に反撃する「駆けつけ警護」も規定。
 また、自衛隊の武器を防護するための武器使用(自衛隊法九五条)を、他国軍の防護にも適用。他国軍との共同巡回中などに攻撃された場合の反撃を想定。閣議決定や首相の指示なしで戦争の当事者になる危険があります。

 派兵についての事前承認について。詳細な計画は「秘密」で、国会には報告もされません。さらに国会での議決は衆参議会それぞれ「七日以内」としています。アメリカの要請にすみやかに応じ、戦争参加してゆく仕組みです。

元3等陸曹レンジャー隊員 井筒高雄さん

 「いまいちばん安倍首相に怒っているのは、自衛隊員とその家族でしょう」。こう語る井筒高雄さんは、元自衛隊員の立場から戦争政策の危険性を語っています。憲法解釈を変え、集団的自衛権を行使しようという、昨年春から浮上した動きがきっかけでした。

日本の防衛と無関係で死ね?

 戦争立法は「歯止め」がどう、などと攻防があるように報じられていますが、細かい事はどうあれ、着地点は自衛隊が米軍やその同盟軍とともに海外で戦争する戦争当事国になるということです。もっと簡単に言えば「日本がアメリカのパシリとして戦地でがんばる」ということです。
 陸上自衛隊のレンジャー隊員でした。自衛隊の中でも最も厳しい訓練を受け、遊撃戦を遂行するプロフェッショナルです。レンジャー行動には少しでも多く弾薬を担ぐために食料を持たずに出ます。野で蛇や蛙を捕って食べる訓練や、捕虜の尋問の仕方、人の殺し方、敵に捕らわれた時の秘密保持などを教育されました。実弾が飛び交う中をほふく前進する訓練も。死亡事故もあるため訓練は遺書を書くところから始まります。
 そうしたことを知る私は、今の政治状況を見ていて、「やめといた方が良いよ、頼むから九条は残そうよ」と思っています。すべて決まってしまってから国民が「知らなかった」と言うことになってしまわないかが心配です。
 私は自衛隊をカンボジアに送るPKO法案が決まった一九九二年に自衛隊を依願退職しました。自衛隊に入る際、「日本を直接侵略、或は間接侵略から身を呈して守る」(自衛隊法)と服務宣誓します。私もしました。それが海外で、日本の防衛とはまったく無関係のアメリカの圧力による軍事行動で死ぬなど、明らかな服務宣誓違反で、絶対嫌だと考えたからです。

それでも武力を選ぶか?

 海外の戦闘で通用する技能や力量のある自衛隊員は二四万人のうち数%です。世界最強のアメリカ軍ですら不可能な人質救出を、自衛隊の海外派兵で「可能だ」と語る安倍首相は、軍事作戦のリアリティーを何ひとつ分かっていない最悪の指揮官です。本当に戦争するつもりなら、政府はもっと具体的な事を国民に示すべきだし、メディアも追及すべきです。
 海外で戦争するようになれば、自衛隊員だけの問題ではすみません。戦闘では必ず死者が出ます。アメリカ軍と多国籍軍では、多国籍軍の方が狙われていることも分かっていて、死者は非戦闘中や後方支援の方が多い。死のリスクがあれば入隊者は減り、そうなれば次は一般国民が動員されます。徴兵制なのか、アメリカ式に経済的に軍に誘導するのかは分かりませんが…。まさかと思っても実際に、経済同友会の幹部が「自衛隊に入った人には、奨学金の返還を免除しては?」と昨年八月、文部科学省の会議で提案しています。
 どんな軍事作戦でも「死ぬ要員」が一定数必要です。金も時間もかけて養成したエキスパートが簡単に死んでは困るので、経験の少ない若い人がコスト的に向いている。若い兵士を将棋の歩のように最前線で使うのです。自衛隊は一〇代・二〇代の充足率が七割程と少なく、若者の入隊を増やそうと必死です。昨年、中・高の三年生に自衛隊の募集資料が届いたのもその流れです。

 自衛隊を常時海外派兵できる状態にしておくには、隊員の確保とともに防衛予算の大幅増額も必要です。隊員の日常生活を制約し、環境整備をしなければなりませんし、戦死や負傷などへの補償も充実しなければなりません。災害が起きても、戦争中であれば、これまでのように自衛隊が救援に出なくなる可能性も。帰還兵のアルコール依存、自殺、犯罪などのリスクも社会が負うことになります。あわせて、国内外の施設や海外の日本人が攻撃対象になる危険性も。
 医療関係者にも大いに関係があります。有事には徴用の対象になるからです。民医連のように戦争に反対する所は邪魔なので、真っ先に送られるかもしれません。
 国民ひとりひとりに関係する話なのです。「そういう国にしちゃって良いの?」という問いがいま、突き付けられています。
 こうして発言していると「国際協力より自衛隊員の命が大事なのか?」などと質問も来ます。
 第二次大戦後の「集団的自衛権の行使」は、大国が小国の利権を押さえる形のものでした。こうした手段で和平が成功した事例はありません。「それでも武力を選ぶのか、武力以外のアプローチにするのか、議論すべきではないか?」と、答えています。

(民医連新聞 第1596号 2015年5月18日)