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民医連新聞

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「ハンドブック 働くもののメンタルヘルス」出版 労働者の視点で「人間らしく働く」ためのツールに

 働くもののいのちと健康を守る全国センター(いの健センター)が昨年一二月、『ハンドブック 働くもののメンタルヘルス』(旬報社)を出版しました。三月二〇日に行われた出版記念学習会で、いの健センター理事で、石川・城北病院精神科の松浦健伸医師が行った講演から、本書の特徴を紹介します。執筆には民医連医師も多く参加。現代の働き方を分析し、労働者、労働組合に役立つ実践の書です。

■働く人の目線で

 本書の最大の特徴は、労務管理やセルフケアといった視点ではなく、「働く人々による働く人々のためのメンタルヘルス本」をめざした点です。
 また、東日本大震災が、人と人との関係性や働き方について見直すきっかけとなりました。労働者のメンタルヘルスチェックの義務化なども意識しています。
 本書の特徴は、(1)労働者・労働組合のための書、(2)いの健全国センターのこれまでの経験の蓄積を活かしている、(3)実践的、実際的内容であり、大きな視点から細やかな視点までを網羅、(4)労働組合の担当者+産業医+精神科医による協働作業チームで作られていること、です。
 一章では、労働者の目線で働き方(働かせ方)に注目し、メンタルヘルスの背景に迫っています。二章では、発達障害の問題などにも触れ、「人をどう見るか」の視点から予防を考えました。三章では、職場復帰に際しての労働組合の役割について触れました。あわせて、五章にある労組の役割についても学んでほしいと思います。
 七章は災害時を想定しています。被災地の労働者や、支援に入った人たちの健康問題とその対処について考察しました。
 八章は、相談を受ける側の人たちのメンタルヘルスについてです。これは“本書の売り”の一つとも言えるでしょう。

■相談活動とは

 次に、メンタルヘルスの相談が入った時のために、相談活動とは何で、どうすすめるかについてふれましょう。
 相談とは「相談する人(相談者)」、「相談される人(面接者)」、「相談事」の三つで構成されます。これらが明確でなくなると、相談として機能しなくなります。
 例えば臨床の場合、「医師」「患者」「不眠(などの相談事)」が構成要素です。この三つを、常に明確にしておくことが不可欠です。が、しばしば揺らぎます。「不眠」の訴えで受診したはずが、患者の背景を聞くと、色々な問題が出てきます。相談事は「不眠」なのか? 「夫婦の不仲」か? はたまた「生い立ちによるトラウマ」なのかもしれない…という風に。
 労働相談の現場でも同様のことがあるでしょう。賃金や解雇の問題だったはずが、家庭の問題にも相談に乗るようになってきて…。「何を相談したいか」「どこまで、誰が相談にのるか」が明確になっていないケースが多いです。
 「相談」を「相談」として維持するにはどうするか。「人の役に立ちたい」という思いは、時として“落とし穴”になります。相談を受ける側が「何をしたらいいのか、分からなくなる」とか、約束の時間を過ぎても相手の求めに応じて面談を続けてしまう、などは、面接者が相談者に“巻き込まれている”状態です。こうなると結局、相談者は症状を悪化させ、面接者は燃え尽きることになります。
 そうしないためには、一人で抱え込まずシェアする。職場のつながりの中で解決することが大切です。
 「共感」について。例えばドキュメンタリーなどを見て、感情を共有することは出発点です。しかしそれは、似た「感情」であって、同じ「体験」をしたわけではありません。実は「分からない」と言うことが、共感につながります。「分からない」から、なぜそう感じたのか? その「体験」を聞く。そのことによって、相談者がなぜそのような感情を抱き、悩んでいるかを理解できるのです。

 働き方はいま、本当に厳しくなっています。本書を、ディーセント・ワーク(人間らしい働き方)をめざすたたかいの武器にしてもらいたいと思います。


税別・二〇〇〇円

第1章 なぜ、こころの病気は増えるのか―働く人びとの現状
第2章 こころの病気の正しい知識と賢い医者へのかかり方
第3章 職場復帰とその支援をどうすすめるか
第4章 働きやすい職場・仕事づくりとメンタルヘルス調査
第5章 メンタルヘルス対策と労働組合の役割
第6章 パワーハラスメントのない職場をめざす
第7章 大災害時に働く人びとのメンタルヘルス
第8章 相談を受ける人のメンタルヘルス
第9章 メンタルヘルス疾患に使える制度

(民医連新聞 第1596号 2015年5月18日)