里子・里親! 文・朝比奈 土平 (4)アキラとおじいちゃん
里親研修は、座学が二日と一時保護所での実習が一日の計三日が一セットで、養育里親と養子縁組里親だとこれが二セットで六日間だった。関西では民間団体が委託を受けて研修から紹介までやっているなど、地域によっていろいろらしい。
研修の中で印象に残った一つに、「里親側の親族の了解を取り付けること」というのがあった。面会を重ねて、里親委託の直前になって、里親の親族の反対で辞退になる例があるらしい。里子里親両方の喪失感を思うと本当に悲しいが、特に子どものフォローが心配だ。
うちの場合はどうだったか。
まずお母ちゃんにはお父さんが、僕の方にはお母ちゃんが生き残っていた。兄弟姉妹は合わせて三人いるけれども、みんな独身。
里親研修が始まる前後に、義父に「里親をやろうと思っている。養育と養子縁組の両方で研修を受ける」と伝えた。
「それはいいことじゃないか」との返事だった。実際にアキラが我が家にやってきたのはそれから十カ月近く後になってからだが、ずいぶんうれしかったみたいで、印鑑屋であつらえたフルネームのはんこと現金を持ってきてくれた。「郵便局に行ったが孫だとすぐには口座は作れないと言われた」とのことだった。
アキラが来て二歳の誕生日に、おじいちゃんは倒れて入院した。膵臓がんだった。それから大学病院の外来で抗がん剤を打つ時はいつも三人で車に乗って行った。ある時は受診の朝に、トイレから出たところでおじいちゃんが倒れて、アキラもパジャマのままで救急車に乗ってお母ちゃんの病院に行ったこともあった。
おじいちゃんはアキラに会う度に進化する子どもの姿をよく見ていたし、悪戦苦闘する僕を「よくみるよねえ」などと労ってくれて、そのひと言というのはとても大きなものだった。おじいちゃんがアキラの言動を評して「いやー、要求がはっきりしてるねえ」などと笑いながら話していたのを覚えているのか、アキラは時々こんな風に呼びかけてくる。
「ねえねえ、あっくん、すごいやろ?」。
去年の空梅雨の日に亡くなったおじいちゃんはアキラにとってもいい感情を遺してくれた。
(民医連新聞 第1596号 2015年5月18日)
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