相談室日誌 連載391 国民健康保険が健康をおびやかす?!(京都)
慢性閉塞性肺疾患で当院通院中のA氏(六〇代男性)は以前、食肉市場でいきいき働いておられましたが、加齢や病気の進行によって次第に働けなくなりました。
生活苦で借金せざるをえない時期があり、家賃や国民健康保険料(以下、国保料)も滞納するようになりました。現在は月約一三万円の年金生活ですが、その半分は家賃の支払いが占めています。また、借金返済や国保料の滞納分の支払いもあり、医療費を捻出することが困難なため、当院の無料低額診療事業(以下、無低診)を適用しています。
無低診の更新面談をしたところ、Aさんの国保証が切れていることが判明。Aさんとともに区役所へ行くことになりました。国保の窓口担当者からは、「国保料の滞納が解決しないため、保険証を発行するにはこの場でいくらか支払わなければならない」と説明されました。
「しばらく受診を控えれば保険薬局の薬代で支払うお金が浮くので、この場で支払える」と話すAさんに代わって、現年度分は年金から特別徴収されているため、この場で支払わなくても保険証が発行されるべきだとSWは訴えました。またAさんには、必要な治療を控えるのは間違っていることを説明しました。
本人とともに繰り返し訴えて何とか現金を支払わずに保険証が発行されましたが、もしAさんだけで相談していたならば、窓口担当者に言われるまま支払いをし、受診を中断したのではないかと考えられました。
現年度分は年金から特別徴収されているにもかかわらず、窓口担当者の裁量で現金を支払わなければ保険証が発行されないという行政の在り方に非常に疑問を感じます。本来、国民ひとりひとりの健康を守るはずの国民健康保険が、高すぎる保険料のために、受診抑制につなげてしまうなど、大切ないのちや健康を脅かしているという矛盾が生じています。
必要な時に必要な医療を受けることが保障されるという当たり前の事実を、患者へしっかりと伝えていく必要があり、受療権を守っていかなければ、と強く感じる事例でした。
(民医連新聞 第1595号 2015年5月4日)