「改悪」 現場から問う 入院食費の負担増 給食は治療そのもの 負担増で重症化の恐れ
社会保障改悪が押し寄せています。この改悪が、患者や利用者そして医療・介護労働者にどんな影響を与えるか、シリーズで考えます。一回目は入院食事療養費の患者負担増について。現在、国会審議中の「医療保険制度改革法案」に盛り込まれています。
二月一八日、全日本民医連が国会でとりくんだ要請行動に、一人の管理栄養士が参加しました。長野中央病院の千野辰也さん、五年目職員です。「入院給食費の患者負担増計画の中止を」という議員への要望書とともに、職場の仲間が寄せた「一言」と、病棟の患者さんから聞き取った声を持って。
◇月1万8000円もの負担増
現在、入院給食の自己負担は、療養病床の六五歳以上をのぞき一食二六〇円。それを二〇一八年度に四六〇円に引き上げる改悪です(一七年度は一〇〇円上げて三六〇円)。月一万八〇〇〇円もの負担増。在宅療養中の患者との負担の「公平」をはかるため、というのが厚生労働省の言い分です。
千野さんの職場でこの問題を話し合うと「いまでも経済的に困難な患者さんがいる。食事を断る人が出る」「売店の弁当で済ませて病気を悪化させる人が出るのでは?」「入院自体を拒否する人も出かねない」など、栄養士も調理師も影響を懸念し怒りました。
実際に、千野さんが患者さんのベッドサイドで意見を聞くと、「そんなに上がるなら食事は断る」「弁当にする」などの反応でした。また、声をかけるまで、ほとんどの患者さんが負担増のことを知りませんでした。「年金が減らされて、食費が上がるんだ。税金を軍備に使うなら、もっとまともなことに使えないのかね」と話す患者さんもいました。
これまで行われた入院給食費値上げ
1994年 入院給食の食材費分を自己負担化…1日3食で600円
1996年 1日760円に値上げ
2000年 1日780円に値上げ
2006年 療養病床の65歳以上の食費(調理費分)を食費1日1380円に値上げし居住費1日320円を自己負担化
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入院給食をめぐる問題は、負担増だけに止まりません。かつて入院給食は「基準給食」として公的保険の「療養の給付」に入っていました。厚労省自身〈医療の重要な一部〉〈治癒あるいは病気回復の促進を図る〉と位置づけ。ところが一九九四年に給付から外し、患者に定額負担を求める改悪が。いらい、患者負担は引き上げられてきました(表)。また保険から外されたことで、高額療養費制度※の対象にもなりません。
「僕らは個々の患者さんの栄養状態や年齢、性別、身体状況などを把握した上で食事を提供しています。入院給食は『治療』そのものなんです」と、千野さん。全日本民医連の栄養委員会が発表した「即時撤回を求める声明」(「入院食事療養費の自己負担引き上げ案」の即時撤回を求める声明 三月一六日付)でも、この点を指摘し、入院給食を療養の給付に戻すよう強く求めています。
日本栄養士会も「同意できない」との見解を発表。公平をいうなら、在宅の管理栄養士の指導を充実すべきと指摘もしています。
千野さんは要請行動の際に面会できた国会議員に「こうした声をどんどん寄せて下さい」とリクエストされました。引き続き改悪の問題を知らせ、声を寄せたい、と話しています。(木下直子記者)
高額療養費制度…医療費の自己負担が高額になった場合、限度額を超えた分が払い戻される制度。
(民医連新聞 第1595号 2015年5月4日)