相談室日誌 連載389 身寄りのない患者と成年後見制度 阿部拓見(秋田)
Aさんは、若い頃から股関節に障害がありましたが、生活保護を受け、アパートで介護サービスを利用しながらなんとかひとり暮らしをしてきた方でした。ところが、両側股関節の変形の進行で歩行も大変になり、入院しました。
主治医の診断は「今後は一人で歩いたり家事などを行うのは困難」というものでした。Aさんには結婚歴がなく、兄弟も亡くなっていたため、頼れる親族がいませんでした。そこで、本人や生活保護課と相談し、施設入所を検討することに。障害年金も受給していたので、入院後に生活保護は廃止になりました。
退院後、介護施設に申し込みの相談をしましたが、身元引受人がいないため、施設側の回答は「今後の対応に不安がある」というもの。Aさんは申し込みの受け付けにもたどり着けずにいました。そんな中、ある老健施設から成年後見制度の利用の提案があり、本人の了解も得て手続きをすすめました。
Aさんは年齢も若く認知面は保たれていたので、手続きは(1)将来、判断能力が不十分になった時のために財産管理や各種契約手続きなどを託す「任意後見契約」(2)任意後見が開始されるまでの間、日常の金銭管理などを依頼する「委任契約」の二つを組み合わせたものを、公証人役場で公正証書として作成してもらうというものでした。将来の後見人は、行政書士に依頼し、報酬についても取り決めました。
この事例では、成年後見制度などを利用しAさんの金銭管理や介護保険をはじめ各契約のサポート体制を作ることができました。この先、患者本人の判断能力が低下した場合でも、その時の状況に応じた適切なサービスの利用が期待できると思います。
しかし、成年後見人は家族などと違い「身元保証人」になれません。手術などの医療行為の同意なども行えません。今後さらに高齢化がすすみ、身寄りのない人が増えると医療・介護の現場ではこのようなケースが増えるのは間違いないでしょう。各機関でよりよい対応を考えることは必要ですが、社会全体の問題として考えていくことが必要だと感じました。
(民医連新聞 第1593号 2015年4月6日)
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