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民医連新聞

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日本学術会議 高レベル放射性廃棄物の処分に関するフォローアップ検討委員会 今田高俊委員長の講演から 原発の核のごみ 10万年ぶんの危険をうんだ世代の責任をどうとるか

 東電福島第一原発の事故で、多くの国民が原発の危険性を知りました。また稼働により出る高レベル放射性廃棄物の処理のめどは立たず、原発は「トイレなきマンション」とも表されます。この問題で日本学術会議が近く提言します。「廃棄物の暫定保管に関する計画の作成なしに原発の再稼働は容認できない」と再稼働を急ぐ政府に釘を刺す内容も入る見込み。同会議は日本の全分野の科学者を代表し、政府から独立した職務を行う「日本の頭脳」です。検討委員長の今田高俊さんが原発をなくす全国連絡会で行った講演から考えます。(木下直子記者)

■リスクの塊=核のごみ

 原子力発電によって出る高レベル放射性廃棄物、いわゆる「核のごみ」は、ガラスに混ぜ、棒状に固めています。人間が一五秒も触れると死亡するほどの放射線量です。日本にはこのガラス固化体換算で約二万七〇〇〇本たまっています。
 核のごみを人間社会から隔離するには、いまのところ地下三〇〇メートル以深に埋める「地層処分」しかありません。人体に害がなくなるまで最低一万年、自然界の放射性物質と同等の状態に戻るには一〇万年必要です。一万年前は縄文時代早期、一〇万年前は人類が地球上に住み始めた頃。そんなスケールで人間はこのリスクの塊を抱えていかねばならないのです。

■なぜ提言するのか  

 現在、高レベル放射性廃棄物の処分に関するフォローアップ検討委員会で核のごみの処分について政府への提言をまとめているところです。二〇一〇年に原子力委員会から学術会議にこんな依頼が。「核廃棄物の処分場候補地に手挙げする自治体が一〇年経っても出ない。理解を得る方策を検討してほしい」と。
 その審議中に起きた原発事故も受け、一二年に「多くの国民が知らなかった核のごみのことをいま言い出すのは問題。エネルギー政策を根本的に見直すべき」という主旨で回答。
 核のごみについては(1)総量管理と暫定保管の具体的な形、(2)地域間、世代間の負担の公平化を計る方策、(3)討論の場を設定し多段階で合意を作る手続き、の三点で立ち入った提言が必要だと指摘しました。
 この提言の具体化のため立ち上げたのがフォローアップ検討委員会です。

◆  ◆

 核のごみ処分について社会の合意を形成するには次のような困難があります。まず、国のエネルギー政策も定めぬまま、最終処分地の合意を求めようという手続きの誤りの問題。
 そして、汚染の危険性が万年単位にわたるため、対応は自然科学のみならず言語や文化の分野からも必要なこと。一〇万年の間に小氷河期が来るといわれています。どこに何が埋まっているか分からない大地になっても「非常に危険な物がある」と伝える必要があるが、言語が変わり現代語は通じません。
 そして、最終処分場候補に過疎地があがることで、益を得る地域(受益圏)と負担する地域(受苦圏)が分離する問題もあります。

■問題にどう向き合うか

 原発を持つ国々は核のごみの処分に苦慮しています。唯一すすんでいるのがフィンランドで「一〇万年後の安全」という映画にもなりました。国民が話し合い、二億年安定しているオンカロの岩盤に最終処分場を建設中です。日本でも核のごみが存在する以上、放置できません。
 政策検討に際しては「『総量管理』と『暫定保管』および『科学の限界の自覚』という考え方に基づき『多段階の意思決定を通じた合意形成』で対処すべき」という指針を持ちました。
 提言は「暫定保管の方法と期間」「事業者の責任と地域間の負担の公平」「最終処分地選び」などに具体的に踏み込みます。
 また国民の合意形成のしくみとして、市民参加の「核のごみ問題国民会議」と保管や地層処分の安全性を徹底研究する諮問機関をつくり、それらを統括し政策づくりを担う委員会の設置を提起しました。
 国民が問題に向きあうための呼びかけも。私たちの世代は、原発の核のごみを出すという取り返しのつかない問題を将来世代に残します。その「世代責任」を反省し、対応の先延ばしは避けるべき、としました。
 また、この部分に報道が集中した感がありますが、「核のごみの暫定保管に関する計画があいまいなままの原発再稼働は容認できない」との指摘も入ります。それが「将来世代への責任ある行動」です。


暫定保管…最終処分の安全性を確保するための研究および国民の理解と合意形成を図るために設ける期間のこと。最終処分に向け核のごみを冷却する中間貯蔵とは別(ガラス固化体は最初は熱く、埋められるまでに冷やすには三〇年必要)。
総量管理…核のごみの総量を望ましい水準に保つ操作。社会が脱原発を決めれば上限を確定、続行しても総量の増加は厳密に抑制する必要がある。

(民医連新聞 第1593号 2015年4月6日)

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