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民医連新聞

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フォーカス私たちの実践 ナラティブで看護研修 神奈川・大師診療所 “ナラティブ”の手法取り入れ 看護観を共有し、深める

 民医連医療の経験や理念の引き継ぎは、どの職場でも大きな課題です。神奈川・大師診療所では、“ナラティブ”の手法を取り入れて看護研修を実施しました。看護師長の齋藤朱美さんに聞きました。

 大師診療所の看護師は、非常勤四人を含む計九人。平均経験年数三六・八年という、ベテランが多い看護集団です。
 齋藤さんは病院から診療所に移って三年目。「師長とはいえ、経験年数では短い方です。経験豊かな先輩たちの看護を目の当たりにし、苦労ややりがいなど、後輩に引き継いでいきたいと思った」と話します。

ナラティブとは

 多忙な業務の中では、自らの看護を内省し、看護観を共有する機会はなかなかありません。そこで齋藤さんは、「ナラティブ」の手法で自らの看護を振り返り、それぞれが大切にしてきた看護を言語化し、お互いを認め合い、学び合う職場づくりができないかと考えました。「民医連看護を引き継ぎたい」との思いもありました。
 「ナラティブ」とは、現場で実際に向き合った事例を、患者の背景や自分がどう考えたかなどを物語として語り、見つめ直す手法です。あらかじめ用意したシート(資料)に次の事項を書き込み、発表し合います。
 記入内容は、(1)過去の経験の中から思い出す「一番忘れられない患者との場面」(想起)、(2)なぜその人を忘れられずにいたか=自分で自分を見つめる(内省)、(3)それは看護のどのような関心領域を示しているか(焦点)、(4)そのテーマを今後どのようにすすめていきたいか(醸成)、(5)今大切にしていること、です。

図

師長が語ったこと

 最初は齋藤さんが発表し、順番に職員ひとりひとりが発表していきました。
 齋藤さんが話したのは二三年前のこと。がん末期で長期入院していた六〇代の男性患者の「帰りたい」の一言から、妻の待つ自宅への一時帰宅を実現した経験です。当時は「緩和ケア」の言葉もなく、末期がん患者の外出はほとんど例がありませんでした。しかし、職員が一丸となって実現。数時間の滞在でしたが、患者さんも家族も嬉しそうでした。「患者・家族の思いに寄り添う“あきらめない看護”を学んだ」と齋藤さんは報告しました。
 同時に失敗も。患者の容態が良くない時に家族の不安を和らげようと「大丈夫」と声をかけましたが、その翌日、患者は亡くなりました。遺族に「看護婦さんが“大丈夫”と言ったのに…」と言われました。「専門職として正確な病状を伝えることが大事だと痛感し、その後はそう努めてきた」とまとめました。
 齋藤さんの報告を受けて、職員それぞれがシートに記入しました。「私も忘れられない患者さんがいる」「学生時代のことでもいいかな?」と盛り上がりました。「私も発表したくなった」と、その場で発表することにした職員もいました。

互いの看護観を共有

 その後、全員が発表しました。実習生の時に担当した腎臓疾患の患者の医療的ケアが十分にできずにいたら、先輩から「寄り添うことも看護だよ」と言われ、看護の奥深さを知ったこと、NICUで小児の患者を看取った時のこと…。「ひとりひとりが大事にしている看護を知り、共感できた」「自分の看護観を見直す機会にもなった」「先輩の失敗談を聞き、自分だけではないとホッとした」などの感想が出されました。終了後のアンケートでは、全員が「満足」と答えました。
 齋藤さんは、「いっしょに働く仲間が何を大事にしているかを知ったことで、普段の業務の中でも声かけが増えるなど、コミュニケーションも良くなりました。今回は看護職員のみでのとりくみでしたが、今後、医療と介護の連携などにもつなげていきたい」と話しています。

(民医連新聞 第1592号 2015年3月16日)