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民医連新聞

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安倍政権社会保障解体戦略を読む (6)生活保護 削られる生存権 史上最大 生活扶助引き下げ 住宅扶助、冬季加算 減額

 安倍政権の社会保障解体、シリーズ最終回は生活保護分野。生活保護は二〇一三年に政府が三度に分けて生活扶助基準を引き下げると決め、一三年八月、一四年四月とすでに二度の引き下げが行われました。削減額は総額六七〇億円という史上最大規模。また一月に発表された一五年度予算案では、今年四月に三度目の引き下げを予定通り行うだけでなく、住宅扶助と冬季加算のカットまで盛り込まれました。生活保護は、憲法が保障する「健康で文化的な最低限度の生活」を具体化したもの。すべての国民の「生存権」が削られることになるのです。(木下直子記者)

生活扶助基準
無視された物価の高騰

 生活扶助基準の引き下げの影響は、生活保護利用世帯の九六%(約二〇〇万人)に及びます。世帯あたりの削減率は平均六・五%、最大は一〇%で、子どもを抱える複数世帯ほど打撃に。
 厚生労働省は「物価が下がったため」と説明しましたが、当時引き合いに出した消費者物価指数の総合指数は、家電製品など生活保護世帯には手が出せない贅沢品も含んだ平均値。根拠にするには不適当なデータでした。
 逆に、低所得者の生活に影響が大きい食料などの生活必需品や、水光熱費などの物価は上昇していました。しかも三度目の引き下げの検討時期は、アベノミクスの影響で物価は高騰(資料1)。しかし、その事実は無視されました。

資料1
 政府が引き下げを発表した一三年、全日本民医連は、緊急生活保護受給者実態調査を行いました。その結果、一日の食事を二回以下にしている人が三割、人づきあいを絶ち引きこもるなど、引き下げ前でさえ「健康で文化的な最低限度の生活」に届いていないと判明。民医連は「引き下げは命を脅かす」と、撤回を求めました。
 二度の引き下げ後、受給者の暮らしについて聞いた調査があります。法律の専門家や福祉関係者などでつくる生活保護問題対策全国会議が、昨年一一月に発表した「生活保護利用者の暮らし緊急アンケート」(回答一二八五人)です。生活が「思っていたより苦しくなった」という回答が六〇%にも。特に節約している費目は「食費」が最多の三五%、「被服・履物費」(一七%)、「水光熱費」(一五%)と続きます(資料2)。

資料2
 「切り詰められるのは食費くらい。回数も量も減らし質も落とす。毎月三日が保護費の支給日。月末は次の支給日までの食事回数を数えてのやりくりです」と語るのは、生保利用者の宮崎由二さん。宮崎さんは生活扶助基準引き下げが「健康で文化的な最低限度の生活を侵害する」、と三重県で訴訟を起こした原告の一人です(別項)。
 そんな中、利用世帯に追い打ちをかける住宅扶助基準と冬季加算の削減(計六〇億円)が一五年度予算に盛り込まれました。

住宅扶助
「住の最低基準」下回る

 住宅扶助は、生活保護の家賃にあたります。地域と世帯人数ごとに定めた基準額を上限に、家賃の実費を支給します。この基準の引き下げが今年七月から狙われています。世帯あたりの削減額は最大で月一万円にもなります。
 厚労省は引き下げの根拠として、低所得層の家賃平均額(三・八万円)と住宅扶助基準(四・六万円)を並べ「生活保護世帯の方が高い」と説明しました。しかし、低所得層は家賃の「平均」で、生活保護は家賃の「上限」…。これらの比較は無意味です。生活保護の単身世帯の六一%、複数世帯では六三%が住宅扶助の上限額以下の家賃です。住宅扶助実績は三・七万円、生活保護利用者の家賃は低所得層の家賃平均より低いのです。
 しかも、現行の住宅扶助ですら深刻な問題が。東京都で単身者では五万三七〇〇円(一級地)、二~六人世帯では六万九八〇〇円(同前)という基準額。「最低居住面積」を満たす住居が確保できず、建築基準法に違反した危険な住居に住む世帯は四割超など住環境は劣悪です(資料3)。

資料3
 なお、最低居住面積は「健康で文化的な住生活を営む基礎として必要不可欠な面積」として国が定めた尺度です。厚労省は「民間借家の三分の一の世帯がこの水準以下」とのデータを示し「最低居住面積は守る必要なし」と暗に主張しました。
 「生活保護では、狭い路地にある老朽化した危険な住居に住まざるをえない。阪神大震災で生保利用者の死亡率が一般の五倍に及んだ教訓が生かされていない。居住の改善が急務、住宅扶助を引き下げるなど論外」と生活保護問題対策全国会議は抗議しています。

冬季加算
データ操作「命綱」削る

 暖房などで光熱費がとりわけ必要になる一一~三月に支給されるのが冬季加算です。今回、月八〇〇〇円以上の減額になる世帯も。
 厚労省は、沖縄と北海道の光熱費を比較し「その差は二倍弱だが冬季加算を比べると四倍以上の差がある」と削減の根拠に。なぜ地域ごとの光熱費平均でなく、地域差を出すのか? 寒冷地では加算のない一〇月と四~五月にも暖房が必要な実態を踏まえていないなど、問題が指摘されています。
 総務省の家計調査(資料4)では北海道の一世帯あたりの灯油の年間購入量は全国平均の四・八倍で、厚労省のいう加算額と実態とのズレはありません。電気料金値上げなどで、冬季加算では不足している現状も報告されており、病気や障害を持つ人の多い生活保護世帯にとって命に直結する問題です。

資料4

原告と共にたたかう
「生存権がみえる会」 三重

 連続する改悪に生活保護の当事者たちが立ち上がっています。「生活扶助基準の引き下げは憲法二五条に違反する」と、行政に取り消しを求める裁判が一九地域で起こされています。原告数は今年一月時点で六五〇人に。今後三〇地域・一〇〇〇人規模に膨らむ見込みです。
 昨年八月、三重県では二五人が居住する津、四日市、松阪、桑名の四市を提訴しました。この動きにあわせ、裁判をささえる会(会長=三宅裕一郎三重短期大学教授)も設立。「生存権がみえる会」と名付け、弁護士や研究者、市民団体や学生も参加して、学習企画や署名、キャラバンなどにとりくんでいます。
 「会」事務所は三重民医連に。職員の田中武士さん(SW、柳山ケアプランセンター)も事務局メンバーです。

*   *

 今年一月二二日に開かれた初法廷は、入れない人が出るほど傍聴者がやってきました。この時、法廷で意見陳述を行った原告の宮崎由二さん(60)は、津生協病院の患者さんです。ケガで職を失い、八年前から生活保護を使っていますが、二度の扶助切り下げで、暮らしがこれまで以上に苦しくなったことを話しました。一日の食事は二回、風呂は週一回が当たり前、お湯を沸かす時は水道水を室温に戻してから、ガスを使う時間を五秒間節約する…。「これが憲法のいう『健康で文化的』なものでしょうか」と問いかけました。
 一時は住まいもなく自動車で生活していた宮崎さん。病気がきっかけで生活保護を受け始めたものの、生きがいもなく過ごす日々でした。それが、生活と健康を守る会に出会い、扶助引き下げに直面し「これはアカン」と、立ち上がる決意をしたといいます。
 「就学援助など低所得者向けの制度にも直結する。生活保護の改悪に怒る人は多くても、原告になれるのは生活保護を受けている僕らだけ。たたかうことで、誰かの助けになれる。月光仮面になれるなら、生きとる意味があるやないかと思えた」と語りました。
 「裁判で仲間もできた。悪政をして、こんな機会をくれた安倍首相に感謝したいくらいや」と、傍らの田中さん、三宅さんや長友薫輝さん(三重短大教授、「会」事務局長)と顔を見合わせました。

(民医連新聞 第1592号 2015年3月16日)