震災から4年、復興の視点は 神戸大学名誉教授 室崎益輝さんに聞く 被災地のことを全国の課題として
東日本大震災から四年。すすまない復興に何が必要か―。神戸大学名誉教授の室崎益輝(よしてる)さん(日本復興学会元会長)に聞きました。(丸山聡子記者)
災害とはどういうものか。第一に、命や暮らしなどをことごとく破壊し、希望や生きがいを破壊し尽くします。ですから復興は、生活、生業など生きるために欠かせないものを取り戻し、希望をもって生きられる状態に戻すことです。
第二に、災害は社会が抱える矛盾を顕在化させます。東日本大震災では、深刻な医療過疎など、日本社会ですすむ一極集中化と過疎化の問題が噴き出しました。社会運動の課題にし、改善することが重要です。
安全だけでは不十分
復興の視点は「安全」だけでは不十分で、未来にどういう地域、社会を作るのか、という視点が大事です。
東日本大震災の直後は津波への恐怖から「防災」ばかり強調され、「高台移転」「強大な堤防」が提唱されました。それは、いわば“上”からの押しつけの性格を強く持っていました。そこで暮らす人たちの「どういう社会を作るのか」についての議論は不十分なままです。
被災地への対策を「汚れたキャンパスに絵を描くこと」に例えると、まずは汚れをきれいにすることが大事で、これが瓦礫撤去です。そして、どんな絵を描くかじっくり考え、時間をかけて描くのが復興です。今の政府は、汚れたままのキャンパスに急いで描こうとしているようなもの。
復興の主人公は誰か
阪神大震災では、被災者の多くは大阪などに勤めるサラリーマンで、住宅には被害を受けても、仕事は失いませんでした。
しかし東日本大震災では、住宅とともに地域の産業が壊滅的被害を受け、大半の人が住まいと収入を失いました。住宅再建だけでなく経済の再建が必要なのです。中小企業をどうするか、漁業や農業をどうたて直すかと考えれば、巨大堤防で囲むという計画はあり得ないでしょう。
上からの計画で東北の魅力を奪っては、被災者は希望を取り戻せません。復興の主人公となるべき被災者が議論の場にいない状態は今すぐ解決すべきです。
問題の根底には
震災で顕在化した問題の根底には、東北で進行する貧困の拡大があります。
そして医療は震災前から危機にあり、被害が拡大しました。いまも医療と福祉は足りないのに、国は簡単に病院を潰そうとしている。学校と病院がなければ住民は去ります。医療と教育と福祉は一体的に考えなければならない課題です。
漁業や農業などの第一次産業をないがしろにし、輸入に頼ってきたことも、大きなツケとなって被災地を襲いました。東北の貧困の原因ともなっています。
地方自治のあり方も問われています。市町村などの基礎自治体は防災やまちづくりを担うため力をつける必要があります。しかし現実には合併で力は衰え、災害に対応できていません。
いま被災地で起きていることは、近い将来、日本がぶつかる問題で、全体の課題として捉えねばならない。しかし現実はそうなっておらず、五輪に向け資材も人も東京に集中し、復興を極端に遅らせているのが現状です。
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復興の原動力となるのは、多様なコミュニティーです。一人では困難なことでも、被災者が集団で声をあげ、基礎自治体と信頼関係を結び、自治体が被災者の立場で県や国とたたかっていくこと。被災者ではない私たちは、そのとりくみを孤立させないよう支援する。民医連の皆さんなら、被災地で医療・福祉を守ろうとがんばる人たちを支援できます。
一極集中型の社会はもうやめて、自立分散型の自治のあり方を考えていく時です。復興をすすめながら、日本のあるべき姿を議論する。そのことが大事です。
(民医連新聞 第1591号 2015年3月2日)