リアル社会を生きるゲイ職員の性講座(20) 文・杉山貴士 性的マイノリティ支援をめぐって〈3〉
性的マイノリティ支援のありようを考えてきました。外から「こうしてあげよう」という支援ではなく、働く職場の仲間や同じ地域に住む地域住民として、どうやって生活を作るかという土台こそが必要だと感じます。
よく取り沙汰される数字として、性的マイノリティは異性愛者に比べて自殺企図率が6倍高い、という調査があります。また、現在日本にいるHIV感染者2万人のうち、同性間での性的接触によるものが70%以上という現実があります。だから「特別な対応が必要だ!」という結論になりがちですが、特別な対応だけが焦点化されているような気がしてなりません。
私は、職場で生活実態を伴った関係性のある実践こそが、ともに「生活を作る」上で不可欠ではないかと思います。関係性の「結び直し」は、異性愛者のみに性的マイノリティ理解を促すことではありません。当事者が職場や地域でどう生活をつくるか、生活実態を示さなければ意味がありません。差別、抑圧があるからダメだという当事者も多いでしょう。しかし、少なくとも民医連で働く当事者が、同僚である異性愛者を信頼して生活実態を示すことは、そうハードルが高くはないはずです。
そこで私の提案したい2つ目は、「ともに働く」という実践です。同じ目標や価値観を共有し、役割分担をして目標に向かって自分を出しながら「ともに働く」実践があってこそ、働く仲間の置かれる状況が身近に分かります。性的マイノリティ支援というと、当事者の置かれる状況に寄り添って…と考えがちです。その視点は重要ですが、当事者が自分の生活が出せる環境のもと、「異性愛者とともに働く」という実践・協働こそが、相互理解を促し、性的マイノリティ支援の「確かな力」になると思います。
このように、性的マイノリティ支援の必要な視点として、(1)関係性の結び直し(連載(19)で提起)、(2)彼らと「ともに働く」実践が重要だと考えます。
そして、だからこそ私は民医連で働く当事者たちに「仲間を信頼して『さりげなく』声をあげていこう」と呼びかけていきたいと思います。
次回は、超高齢社会と性的マイノリティについて、当事者が異性愛者とどう関係性を結び直していくのか、考えていきます。
すぎやま・たかし 尼崎医療生活協同組合理事会事務局課長、法人無料低額診療事業事務局担当、社会福祉士。著書に『自分をさがそ。多様なセクシュアリティを生きる』新日本出版社、『「性の学び」と活かし方』日本機関紙出版センターほか
(民医連新聞 第1590号 2015年2月16日)