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民医連新聞

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健康阻害の背景は―― “社会的決定要因”の視点いかして 健康と社会(SDH)セミナーのワークショップから

 昨年開かれた第一回健康と社会(SDH)セミナー(一一月二九~三〇日、主催・JAGES=日本老年学的評価研究)には、約三八〇人が参加しました。セミナーは全日本民医連が後援し、医師四〇人を含む約二六〇人が参加。一部では、行政担当者や研究者、民医連医師の講演に続き、米ハーバード大学公衆衛生学教授のイチロー・カワチ氏の特別講演「ソーシャルキャピタルを活かした健康づくり」がありました。二部のワークショップでは、「健康の社会的決定要因」の視点を医療・介護現場でどういかすのか、熱心に議論されました。内容を紹介します。

■二つの指定報告

 ワークショップの冒頭に二つの指定報告がありました。

〈若年糖尿病の実態調べて〉

 「暮らし・仕事と四〇歳以下2型糖尿病についての研究」班の松本久医師(熊本・くわみず病院)は、「SDHの視点からみた若年糖尿病の実態と臨床現場に問われること」と題し、七八二人を対象に行った調査の結果を報告しました。全体の一割が生活保護世帯など低所得の傾向で、中卒が一五%(全国平均では三%程度)など低学歴が多く、正規雇用の割合も全国平均七七%に比べて五五%と低かったと紹介。定期受診できない理由は「忙しくて時間がとれない」(三四%)、「診療時間に仕事をしていた」(二七%)、「経済的に苦しい」(一九%)など、八割が仕事や経済的問題だったとして、「治療を中断すると“不良患者”と見てしまいがちだが、背景にはこういう理由があり、悪影響を及ぼしている」と指摘しました。
 そのうえで、社会・経済的視点で慢性疾患指導のレベルアップ、小児科や小中学校、共同組織など保健・地域・行政との共同などを呼びかけました。

〈貧困と乳がん再発〉

 高崎恵美医師(福岡・千鳥橋病院乳腺外科)は「進行・再発乳癌の治療における社会的課題とその解決策についての検討」と題して報告。千鳥橋病院では二〇一三年三月に乳腺外科を開設しました。高崎さんは、一年九カ月間の乳がん患者四二例を分析し、「初診時にステージIII以上の進行・転移再発乳がんの割合が全体の二八%で、全国平均七・三%の四倍にのぼる」として、三つの症例を報告しました。
症例1) 四〇歳、女性。鎖骨と股関節の痛みで整形外科を受診。病的骨折で乳腺外科に紹介。多発の骨転移を伴うステージIV。治療継続中。再婚した夫と中学生の娘の三人暮らし。収入は夫の月収約一二万円のみ。国保料を滞納し、無保険状態。分割払いにして保険証取得。無料低額診療制度利用。
症例2) 六七歳、女性。五カ月前に右乳がん部分が自壊したが、「死んだ夫のもとに行きたい」と放置。娘に連れられ内科受診↓乳腺外科へ。ステージIIIcで右乳房からがんが隆起。放射線治療、抗がん剤治療が効き、慢性期病棟でリハビリ中。長距離トラック運転手の長男と二人暮らし。初診時、温泉場での洗濯と新聞配達のダブルワークをしていた。失職して貧困状態となり、無低診を利用した。
症例3) 四二歳、女性。一年前から右乳房腫瘍を自覚していたが、派遣社員で無保険状態だったため放置。その後解雇され、会社の寮を出されホームレスに。痛みが激しくなり、ホームレス支援のNPOに相談。生活保護を申請した直後に受診。ステージIIIcで右乳房全体ががんに置き換わっていた。
 高崎さんは「進行してから受診する患者が多い背景には、当院が低所得世帯や生活保護世帯が多い地域にあり、貧困や低学歴、理解力の不足がある」と分析。無低診を行っていることも要因の一つ、と語りました。

■健康阻害要因の解決には

 指定報告を受け、参加者はグループに分かれて討論しました。「地域を知り、民医連外の団体や行政との連携を」「社会・経済的な困難を抱える患者さんのプロファイルの作成を」「無低診のデータの蓄積と分析」などの意見が出ました。
 東京大学准教授でJAGESの近藤尚己氏がワークショップについて講評。「民医連の強みのひとつは全国組織という点。一〇年かけて公衆衛生の専門家を育て、全国のデータを集め、分析するなどが可能だと思う。もうひとつは、もっとも底辺の方々を知っている医療機関であること。集めて分析したデータをもとに現状を伝え、国や自治体の政策策定に言及できる力をつけてほしい。民医連は、社会的弱者の健康を守る立場で代弁者となる力を持っている数少ない医療機関だと思う」と期待を寄せました。

(民医連新聞 第1589号 2015年2月2日)