リアル社会を生きるゲイ職員の性講座(19) 文・杉山貴士 性的マイノリティ支援をめぐって〈2〉
性的マイノリティ支援を考える時、「人権」という観点だけでは限界があることを、前回お話ししました。私は生活のために、大学院には進学せず、民医連に入職しました。「プライドがなくていいよね」と言う研究仲間もいました。研究活動を続けられるのは、結果として生活問題に鈍感な人たちなのかと考えたこともあります。「異性愛中心」という“暗黙の了解”を非難して「ゲイ差別云々」は認識できても、他者の生活問題への視点がない(親からの支援等で身分が不安定な非常勤講師等で生活できる環境があったり)。フェミニズム運動の中心的担い手が、実際には経済的に恵まれた女性が多かったのと同じです。この一件を通して、私はゲイに起因する生活問題への関心が強くなりました。
性的マイノリティ支援を考える際、メディア等での情報と現実社会生活との乖離(かいり)がどの程度あるのか、考える必要があります。多くのゲイはカミングアウトもせずに、「ノンケ生活」をして働いています。逆にカミングアウトして情報発信する当事者は、組織や地域とかかわりなく生活できるバックボーンがある、という人が多いのも事実です。性的マイノリティ支援という場合、前者が対象です。「物言わぬ当事者」は、なぜ物を言わないのか。「生活」があるからです。異性愛社会で性的マイノリティが置かれている困難への理解だけではなく、同じ生活をしている当事者としての理解も必要です。ゲイの生活は決して特殊ではないのですから。
確かに、ゲイゆえに地域や組織と疎遠になる人も多くいます。だからこそ、他者とのつながりの再構築が求められます。ゲイを理由に人とつながれないことを正当化させない、異質な他者とのつながりの実践です。
私が提案したいことは、家族や地域、職場との絆の結び直しです。社会制度の変革を望むにしても、身近な家族や地域、職場でのつながりなしにはできません。同性婚を求める運動に現実味がないのは、こうしたプロセスを経ていないから。セクシャリティに敏感である職場環境だけでなく、物言わぬ当事者が「物を言う」実践も必要です。性的マイノリティは5人に1人という調査もあり、仕事を通して自分を出していく当事者の姿も必要です。あなたの職場にも、おそらく「物言わぬ当事者」がいます。彼らが仕事を通して声を上げた時に、大きな地殻変動が起きると思います。
すぎやま・たかし 尼崎医療生活協同組合理事会事務局課長、法人無料低額診療事業事務局担当、社会福祉士。著書に『自分をさがそ。多様なセクシュアリティを生きる』新日本出版社、『「性の学び」と活かし方』日本機関紙出版センターほか
(民医連新聞 第1589号 2015年2月2日)