相談室日誌 連載383 生保申請を通して~ メディアの影響と私たちの役割 竹本耕造(埼玉)
Aさん(四〇代男性)の生活保護申請の支援で考えたことを報告します。Aさんは腰痛、脱水、栄養失調で救急搬入されました。日雇い仕事(引越し)を腰痛で辞職、所持金は一二円。自殺しようと手首を切っていました。
Aさんは、若いころに上京し、建築業で長く働いていました。親の反対を押し切る形で故郷を出たため、親兄弟とは音信不通です。リーマンショック後の不景 気で失業、無料低額宿泊所へ入り、生活保護を受けた時期もありました。そんな中で運送の仕事を見つけ、保証人に苦労しながら住居も借り、保護は廃止に。と ころが、職に就いてしばらくすると、朝四時に出て二三時過ぎ帰宅という長時間勤務を強いられるようになり、体がもちませんでした。その後日雇いの仕事に就 きました。一カ月で腰痛で動けなくなりました。運送会社時代は仕事で使う携帯電話代や交通費は自分持ち。貯金はほとんどなし。収入が途絶えると生活費が尽 き、「死んだら楽になる」と手首を切ったそうです。
生活保護の再申請を考えなかったのかと尋ねると「不正受給のテレビ報道をみると後ろめたくてできなかった。運送の仕事をもっとがんばれば良かったと思っ ていた」と。報道が生活保護申請をとどまらせていたのでした。
SWが「誰にも申請の権利がある」と説明し、Aさんの気持ちも変化。生保と生活費の貸付で、生活の目処をたてることができました。
Aさんはメディアがつくった「生活保護」=「不正受給・後ろめたいもの」というイメージにより、孤独死していた可能性もありました。日々の相談業務から もバッシング報道後、明らかに生活保護以下の生活水準でも、申請をためらったり拒否する人が増えたことを感じます。
必要な人から生活保護制度を遠ざけたメディアの「罪」を、私たちは現場の事例の発信や「生活保護を受ける権利」「権利としての社会保障」の意識を草の根 から広げることで塗り替え、払拭しなければと心底感じています。
また、非正規雇用が常態化し、就労環境が劣化しています。労働者を文字通り「使い捨て」る企業の社会的責任も強く問われています。
(民医連新聞 第1586号 2014年12月16日)