子どもの貧困解決へ 佛教大と民医連が共同研究 2月から外来で調査開始 多くの事業所の協力を
民医連の小児科医師らが研究者とともに、子どもの貧困に関する調査にとりくんでいます。国内では初となる新生児の社会的背景の調 査も実施。子どもの貧困は社会問題になっていますが、「生まれた時から困難」な暮らしの実態に迫った研究はありませんでした。来年二月には協力事業所を広 げ、「子育て世代調査」も行います。研究責任者で佛教大学社会福祉学部教授の武内一医師(大阪・耳原総合病院小児科)の寄稿です。
子どもの貧困が過去最悪に
貧困を評価する指標に「相対的貧困率」があります。国民の年収の中央値に対して、その半分に満たない世帯を「相対的貧困世帯」とし、そしてその世帯で暮らす一八歳未満の割合を「子どもの相対的貧困率」と定義しています。
日本で初めて子どもの相対的貧困率が明らかになったのは、二〇〇九年の民主党政権時代。公表された一四・二%「七人に一人」(〇六年)という数字は衝撃 的でした。民医連の職員でも、数の多さに違和感があったかもしれません。それくらい、貧困は医療現場では見えにくいのです。だからこそ、調査が必要だと考 えました。
厚生労働省は今年七月、二〇一二年の子どもの相対的貧困率が、過去最悪の一六・三%にのぼると発表しました。三年に一度の国民生活基礎調査に基づくもの で、一九八五年の一〇・九%から一・五倍に拡大。早急に解決すべき重要な問題といえます。
こうした状況を踏まえ、山口英里医師(福岡・千鳥橋病院)、和田浩医師(長野・健和会病院)、佐藤洋一医師(和歌山・生協こども診療所)とともに、三分 野の調査を計画しました。「出生から一カ月健診までの新生児の社会的背景調査」は、今年四月から来年三月まで、民医連の五つの病院で生まれた新生児を対象 に、出産直後の状況を詳細に聞き取ります。
また、小児科に入院した一五歳未満児の家族を対象にした調査も同時進行しています。来年二月には「外来診療での子育て世代実情調査」も予定(別項)。新生児、入院、外来の三分野で子どもの実態をつかみ、社会に発信して解決策を探る目的です。皆さんの事業所に協力依頼を届けています。多くの事業所のご協力をお願いします。
外来診療での子育て世代実情調査調査機関 小児科を標榜する民医連の病院、診療所 ※詳細は通達296号(11月19日)参照 |
中間集計で問題が浮き彫り
三分野のうち、新生児の調査は使った福祉制度や母親の喫煙習慣など多岐にわたります(表)。相対的貧困下の生活が、出産や新生児の健康に及ぼす影響を調査。カギは児童手当や母子家庭の児童扶養手当などを含む年収の把握です。「収入を聞くなんてプライバシーに関わるし、無理なのでは?」との心配も出ましたが、やってみると快く協力してもらえます。
新生児の四~六月分の調査一三〇件について、中間集計をまとめました。年収(等価可処分所得)でみた相対的貧困ラインは、母子二人世帯で約一七三万円、 両親と子ども二人の四人世帯で二四四万円です(一二年厚労省データ参照)。これに基づき貧困層を非貧困層と比較した場合、貧困層の特徴は次のようでした(グラフ)。
(1)一〇代の出産割合が非貧困層の四倍(2)中絶を約三分の一が経験し、非貧困層の三倍以上(3)生活保護および国民健康保険の割合が高い(4)一カ 月健診時に「育児困難」と評価された世帯が非貧困層の約五倍(5)一DK以下の住まいが過半数(6)母子家庭が非貧困層の五倍超で、母方多世帯母子家族の 割合が高い(7)妊娠前就労割合は非貧困層とほぼ同じだが、非正規雇用が過半数(8)母親の学歴は中卒または高校中退が四割、大学卒は非貧困層の四分の一 (9)母親の喫煙歴が過半数、妊娠中の喫煙率も高い。
あくまで中間集計ですが、困難や問題点が浮き彫りになっています。また、非貧困層の母親の多くは妊娠が分かると禁煙しますが、妊娠前の母親の喫煙歴の高さには驚かされました。
新生児の社会的背景調査の項目(概要)利用した医療助成制度や福祉制度、新生児の健康保険種別、新生児が利用する制度(母子医療費助成、生活保護など)、喫煙と飲酒の習慣、妊娠中の仕事(正規・非正規)、学歴、婚姻状況、世帯収入、住まい、出産で困ったこと |
データ示し政策改善の力に
政府も子どもの貧困に向き合わざるを得なくなり、昨年六月に「子どもの貧困対策の推進に関 する法律」が成立。今年八月に「子どもの貧困対策に関する大綱」も策定され、解決すべき指標が示されました。しかし、いつまでにどの程度改善するのか、数 値目標はありません。実のある政策の実現に向け、医療現場からデータを示すことは大切な仕事です。
来年三月まで一年間のデータを集積します。高リスクの妊娠や出産を早期に把握し、適切な支援につなぐポイントを整理、子どもの貧困解決の科学的な資料に したいと思います。調査概要は、来年の小児科学会で発表する予定です。
調査にご協力いただいている五つの病院のスタッフの皆さんに、感謝します。
(民医連新聞 第1586号 2014年12月16日)