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民医連新聞

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戦争反対 いのち守る現場から 青木クリニック 青木正美院長 秘密法で堪忍袋の緒が切れた 知る権利は民主主義の「血液」

 今回は「特定秘密保護法に反対する医師と歯科医師の会」を立ち上げ、賛同を呼びかけて活動する東京の開業医・青木正美さんの登場 です。昨年強行採決された特定秘密保護法は、一二月一〇日に施行予定。医療機関にも同法に基づき、患者の病歴や治療情報などの提供が強いられる可能性が。 「何が秘密か」も国民には秘密にされ、政権の担い手には都合の良い情報コントロールができる、戦争につながる悪法です。

 「会」を立ち上げたのは昨年一一月末のことです。インターネット上で賛同署名を募る形で活動を始めました。短期間で三五〇人を超える署名が集まり、採決前日の一二月五日に首相と衆・参議長に提出、同時に他の呼びかけ人や賛同者の先生たちと記者会見を開きました。
 私は、特定秘密を扱う公務員などの適性評価のためとして、「患者の病歴やカルテ、診療内容の提供が医療機関に義務付けられれば、患者と医師の信頼関係が 壊れ、患者の健康を害することにもなりかねない」と問題を指摘しました。

■政治に興味なかったが

 記者会見で話すなど、生まれて初めてでした。もともと政治に興味があった人間ではありません。でも、二〇一二年末、自民党政権に戻り、安倍晋三氏が首相に返り咲いてから、日本があらゆる分野でガタガタと音を立てて変えられていくように思えました。
 消費税増税、原発の再稼働や輸出、TPP、沖縄の基地移転推進に憲法改正…そこにきて秘密保護法。これには「これだけ馬鹿にされて、もう限界」「堪忍袋 の緒が切れた」という感じでした。「国民の意見を聞かない。権力者に都合の悪い情報は出さなくて良い」という法律なのですから。
 国民に知る権利が保障され、正しい情報を受け取った人々が主権者として判断する―。これは民主主義の根幹です。民主主義社会の血液のようなものです。
 昨年六月、国家機密と国民の知る権利に関する国際ルール「ツワネ原則」が、世界の研究者の議論で策定されました。国家の情報管理が国民の人権に不利益を 及ぼしてはならないという内容です。その制定後初めてできたのが、よりによってこの秘密保護法でした。日本が世界の民主化を遅らせているように思えます。

■震災復興に関わって

 勤務医だったころに起きた阪神淡路大震災では、発災三日目から神戸市役所を拠点に二週間活 動しました。目の前の被害に衝撃を受けつつ「同規模の震災が首都圏で起きたら…」と考えました。そんなご縁で、関西学院大の災害復興制度研究所の一員とし て、災害社会学の研究にも関わっています。東日本大震災でも、原発事故被災者の健康を守る提言を書きました。福島を置き去りにし、国民に忘れさせようとい う力が働いているように思えます。
 日本は世界に先駆けて超高齢社会に突入します。これから一〇年、「胸突き八丁」の険しい上り坂。そこに大災害時代が重なってくる。そんな中、政府が打ち 出すのは、年金財源を株取引に運用することや、消費税増税で、一〇年後、二〇年後を考えているとは思えないことばかりです。

■平和憲法があったから

 秘密保護法の強行後も、平和憲法を無視した武器輸出三原則の変更や、集団的自衛権の行使容認の閣議決定がされました。
 今の日本は、戦前の過ちを認め、正した日本国憲法の上にあるのに、その一番大切な部分を安倍氏は勝手に変えようとしています。これでいいの? 日本がこんなカードを使っていいのか? と思います。
 かつて日本は、他国から航空機のタイヤの輸出を求められても、それが戦闘機に使われる可能性があれば応じませんでした。それがいま、兵器で儲けようとい う。経済界も手を出してはいけないところに手を出した。地球の向こう側で、その兵器に殺される人々のことを想像しないのでしょうか。倫理がカネに負けるメ ンタリティーです。
 宮崎駿監督は、アカデミー賞の受賞演説で「五〇年間仕事が続けられたのも、戦争がなかったから」と語りました。日本人のノーベル賞受賞が続くのも、平和憲法があったからです。
 安倍内閣をひと言で表現すると、自分さえ良ければ、今さえ良ければいい、という「人権無視」ではないでしょうか。
 「政治家の責務は、国民の財産と生命を守ること」と、安倍首相は集団的自衛権の行使容認に際して強調しましたが、「それならば国民一人一人の尊厳を守っ てほしい」と言いたい。私たちはもっと怒らなければ。「おかしい!」と。

(木下直子記者)

(民医連新聞 第1585号 2014年12月1日)