フォーカス 私たちの実践 転倒予防 京都・介護老人保健施設西の京 センサーマットの使用を見直し 利用者ごとに転倒予防
患者・利用者の安全確保のために病院や施設で使われているセンサーマット。京都・介護老人保健施設西の京では、夜間にあちこちで 鳴り続けるセンサーマットに頭を悩ませ、その使用方法を見直しました。センサーマットを使用して利用者の行動を観察し、マットに頼らない居室環境の改善や 転倒予防につなげています。
西の京の認知症専門棟は二七床。利用者の多くは、要介護3~4です。夜間は一人の職員で二 七人を担当するため、以前は最大六台のセンサーマットを使っていました。しかし、複数のセンサーが同時に鳴ることが頻繁に起き、対応が追いつかないことが しばしば。転倒予防に役立っているとは言いがたい状況でした。
そこで「センサーマット頼みではない、転倒予防の方法はないか」と、スタッフで議論しました。「単にセンサーマットを置くだけでは転倒は防げないのだと 気付きました。利用者の気持ちに寄り添い、一人ひとりの利用者に合ったセンサーマットの使用、転倒予防の方法を考えなければ、と話し合いました」と、介護 福祉士の蔵元尚之さん。
利用者の行動を知るために
その結果、センサーマットの使用を三つの場面・状況別に絞りました。
第一は、利用者の行動パターンを知る目的です。
対象は、新規入所者、あるいは再入所者で転倒歴がある人、認知症の周辺症状や不安要素のある人、です。センサーマットの使用期間は一週間を目途としまし た。観察のポイントは、ポータブルトイレの使用頻度、ポータブルトイレの認識、ベッドとポータブルトイレの移乗動作、下衣の上げ下げ、失禁の有無、用便後 の紙の始末、ベッド周囲の動き、夜間の睡眠状況、などです。
観察内容は記録し、職員間で情報共有を図りました。それをもとに、居室内のベッド、タンス、ポータブルトイレの配置や補強などを工夫しました。例えば、次のような工夫です。
▼ポータブルトイレ使用時にドスンと座ってしまう
→トイレの肘掛けにつかまる際にかなり力を入れるので、力を入れてもグラグラしたり動かないポータブルトイレを選択。トイレの位置がずれないよう床にテープを張り、固定するようにした。
▼夜間にタンスの引き出しを開けたり閉めたりする
→体位が不安定になって危険なのは下段の引き出しを開ける時だと分かったので、下段の引き出しは抜き取り、引き出しの中身は上段にしまう。
▼車いす自走の利用者がベッドに移乗する際に転倒しやすい
→車いすを停める位置が利用者に分かるようにテープを張る。ブレーキのかけ忘れが多いので、こまめに声かけする。
レベル低下、体調不良も
第二に、基本動作に低下がみられた場合です。
利用者のADLに合わせて居室環境を変更し、観察・評価します。センサーマットの使用期間は、安全が確認されるまでです。
ある利用者は、精神症状があり、自室と食堂を頻繁に行き来するようになりました。そのため、自室のベッドから食堂への導線の安全確保を工夫、ベッドやト イレの位置を見直しました。当初、可動式の手すりは頭部側、ポータブルトイレは足元にありました。手すりの位置を腰の方に変え、食堂に向かって開くように 変更。ポータブルトイレは頭側に移動。ベッドは壁につけて、立ち上がる際に壁に手をついて身体をささえられるようにしました。
第三は、普段は日常動作は自立していても、体調不良だったり、それに伴い服薬している場合です。薬の作用でいつもより意識が明瞭でなく、ボーッとしてし まうことがあるため、体調が回復するまでの見守りを目的として、センサーマットを使用しています。
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こうしたセンサーマットの使用を通じて、職員の意識も変わりました。「それぞれの利用者に 合わせて、転倒しにくい居室環境をいかに作るか、という点に職員の意識が向くようになりました。“保険としてのセンサーマット”の使用がなくなり、マット を外してもどうしたら安心・安全を確保できるかを、職員みんなで考えるようになりました」と前出の蔵元さん。
「今後も、マットに頼らず、転倒の危険を常に意識しながら、住みよい環境づくりを心がけたい」と話しています。
(民医連新聞 第1585号 2014年12月1日)