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民医連新聞

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安倍政権 社会保障解体戦略を読む 憲法25条を否定 「自助・自立」を強要「医療・介護」改革法の狙い ―立教大 芝田教授に聞く

 昨年末の社会保障プログラム法成立以降、安倍政権は健康・医療戦略推進法、医療・介護総合法と、日本の社会保障を大きく変える法 律を矢継ぎ早に通しています。政府の「医療と介護の大改革」は、「単なる改悪の連続ではなく、社会保障そのものの『解体』を狙っている」との指摘も。安倍 政権の社会保障解体戦略を読み解くシリーズ。全体像について、社会保障に詳しい立教大学の芝田英昭教授に聞きました。(丸山聡子記者)

社会保障構造改革の流れ

 社会保障分野の構造改革は、一九九〇年代半ばから始まりました。転機は一九九五年の社会保 障制度審議会勧告です。高齢社会を前に一番の重点としたのが「社会保障支出の中で、これから増えていく高齢者への支出をどう抑えるか」ということ。勧告は 「社会保障は自助・自立が基本」と明確に打ち出したのです。
 その流れの中で、「税での運営を保険方式に」と介護保険制度がスタートしました。そして小泉政権が、二〇〇一年から社会保障の構造改革を推進。基本は 「自助・自立」、それが難しければ「共助」で、それでも対応できない困窮者は「公助」でカバーする、という考えです。
 なお、「共助」とは社会保険だと説明しています(〇六年「今後の社会保障のあり方に関する懇談会」より)。これは社会保険の本質を捨て去る極めて危険な発想です(別項)。


社会保険は「共助」ですか?

 そもそも社会保険を「共助」と定義するのは非常に疑問です。社会保険には「助け合い」「互助」の意味合いもあります。しかし、民間保険との決定的な違いは、「社会」と冠している通り国家に責任がある点です。
 社会保険は法律で加入を強制するため、加入者には低所得者もいます。保険料を支払うことで、憲法が保障する「健康で文化的な最低限度の生活」が侵害され ないよう、低所得者には保険料や一部負担金の減免制度があります。これは社会保険の「人権原理」です。「社会保険は共助」との定義は、社会保険の「人権原 理」を意図的に否定していると言えます。


「受益と負担の均衡」強調

 それでは安倍政権の場合は―。安倍首相は今年一月の所信表明演説で、「受益と負担の均衡がとれた制度へと社会保障改革を不断にすすめる」と強調しました。「受益と負担の均衡」を基礎とした改革を「社会保障全体」に拡大したのです。これは大きな問題です。
 昨年末の「社会保障プログラム法」では、「自助・自立のための環境整備等を推進する」とだけあり、「共助」「公助」という文言は消されています。同法に 先立ち提出された社会保障制度改革国民会議報告書などの文書には、小泉政権以来の「自助」「共助」「公助」の位置づけが踏襲されていたのに、です。プログ ラム法は「これからは『自助・自立』だけが社会保障」と示唆しているのです。
 安倍政権の社会保障改革のキーワードは「受益と負担の均衡」です。「サービスを受ける人(受益者)は、相応の負担をせよ」ということです。これはもはや 社会保障ではありません。社会保障は憲法で保障された基本的人権の具体化であり、憲法は「お金を払った人だけサービスを受ける権利がある」とは言っていな いからです。

お金で買う医療と福祉

 安倍政権は、社会保障を「お金を払わなければ受けられない」“商品”にしようとしています。国民の生存権を守ることを国の義務とした憲法二五条とは、正反対の考え方です。
 具体的に見ると、医療では、今後五年かけて七〇~七四歳の一部負担を現行の一割から二割に引き上げます。厚労省の試算では、一人当たりの自己負担額は年 平均四万五〇〇〇円(一三年)から七万四〇〇〇円になります。
 このほか、すべての入院患者への給食費導入や負担値上げ、紹介状のない患者が大病院を受診する際の自己負担導入(一万円など)、「患者申出療養」という 名の混合診療の解禁、病床機能報告制度、特養の大部屋利用者からの室料徴収…など、国民皆保険や自由開業制を根幹から覆す施策です。

不健康ほど儲かるしくみ

 政府は財政危機を理由に、社会保障を市場(マーケット)に放り出そうとしています。その具体化として、今年五月に「健康・医療戦略推進法」が成立しました。国民の健康増進ではなく、「医療の戦略産業化」「医療産業の競争力強化」が強調される内容です。
 六割の国民が公的医療保険に入っていないアメリカでは、ウェルネス産業が一大ビジネスとなり、一兆ドル産業(二〇一〇年)と言われています。医療や福祉 がビジネスとなれば、「不健康な人が増えた方が企業は儲かる」ことになります。公的保険がカバーする部分を縮小し、市場、つまり私的な産業に置き換えてい く。「健康・医療戦略推進法」は、そのための法律です(表2)。
 元総務大臣の増田寛也氏は今年三月の産業競争力会議医療・介護等分科会で、“健康自己責任論”を基本とする提言を出しました。健診を受けない人、たばこ を吸っている人など、「自分の健康について努力していない人の保険料を上げろ」と主張しています。しかし、皆さんもご存知の通り、「健康は自己責任」では ありません。
 厚労省の「国民健康・栄養調査」(二〇一〇年)では、肥満者の割合、朝食欠食者の割合、睡眠の質、習慣的喫煙者の割合など、所得が低い人ほど数値が悪い傾向があるとデータに表れています()。健康悪化が自己責任ではなく、所得や労働実態と密接にリンクしていることは明らかです。

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 安倍政権のすすめる「戦争できる国」づくりと社会保障“改革”は一体のものです。医療や福祉を“商品”にし、多くの国民を貧乏で不健康にし、働く場がなければ「軍隊に入ればいい」と言う―。そんな国にしようとしているのではないかと感じます。
 憲法二五条はすべての国民に「健康で文化的な最低限度の生活」を送る権利があるとうたっています。今こそ原点に立ち戻り、健康・医療・介護の分野で、国民の側にたった提言、運動を広げましょう。

(民医連新聞 第1584号 2014年11月17日)