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民医連新聞

民医連新聞

第12回 看護介護交流研究交流集会 in青森 明日への活力456演題で討論 ―分科会

 看護介護活動研究交流集会の分科会は二日にわたって一一会場で行われ、口演とポスターセッション合わせて一〇テーマ四五六演題の発表がありました。また、四会場で教育講演も行われました。

10月12日

「人権を守り、ともにたたかう看護、介護」(第1会場)
 一一演題の発表がありました。東京・東葛病院は、身寄りのない脳梗塞後遺症の患者が自宅退院を希望したケースを紹介。食事や排泄などが自立できるよう在 宅療養を見据えて環境設定、他の在宅事業者とカンファレンスを重ねて実現しました。患者の安全を第一に考えるが、尊厳も常に心において支援するべきと話し ました。
 福井・つるが在宅総合センター「和」は、意志決定ができない高齢者の困難事例を紹介。キーパーソンの長男が患者の入院を拒否し、急変の末に亡くなりまし た。判断力が低下する高齢者のいのちを守るのは誰か。「生きる」をささえるために、この課題を今後に活かしたいと締めくくりました。

「安全・安心・質向上をめざす看護・介護技術のとりくみとチーム医療の実践」(第2会場)
 腹腔鏡下大腸手術における安全な手術体位作成、認知症患者への排泄ケア、褥瘡の重症化予防など看護、介護技術向上のとりくみを紹介。地域包括ケアで注目 される複合型サービス事業所の看護師は、看取りにおける介護職との連携の課題を報告しました。
 二〇一二年にたんの吸引や経管栄養の注入が介護職も行える行為として法改正されました。この「介護職の医行為」についての発表が二本あり、質問が集中。 簡単な研修で医行為をすることのリスク、医療依存度の高い患者の在宅療養の課題が見えてきました。
 老健施設の介護福祉士は、利用者の転倒事故を防ぐため、リハビリ職員と連携して居室環境を改善し、センサーマットを効果的に使用したケースを紹介。虐待 や身体拘束に関する発表も二つ。病院の介護福祉士は多職種でカンファレンスを重ね、車いす用のセンサーなど機器を活用して抑制を廃止できたと報告しまし た。

「きれめない看護・介護・福祉の輪」(第6会場)
 発表は一一演題。精神障害のある若年の透析患者が地域で暮らしていくために、家族の負担軽減もはかりながら、患者が関わる病院や施設、地域の調整役も担 い、患者の居場所を確保している報告(山形・鶴岡協立病院)。在宅調整会議を通じて、高齢・認知症の患者がさらされやすい虐待問題に、多職種が連携して対 応した事例(兵庫・共立病院)など、ケースを通じた連携の実践報告が多数ありました。
 また、診療所併設のショートステイでの看取り経験や、「家に居たい」と望む認知症の夫を認知症の妻が看取った事例、病院の壁をとり払った「ウォールレス ホスピタル」をめざし退院支援の多職種チームを結成(東京・東葛病院)など、生活をささえる医療を意識したとりくみも報告されました。難病患者を介護する 家族のためのレスパイト制度を開始した自治体の訪問看護の話題(静岡・訪問看護ステーションほほえみ)も注目を集めました。
 「地域包括ケアには、多職種協同と医療・介護の協同という二重の連携が必要」と助言者の林泰則・全日本民医連事務局次長。「病院完結でなく、地域完結 で。ウォールレス、シームレスをめざしましょう」と結びました。

「健康づくりを支援するためのまちづくりとヘルスプロモーション活動/救急医療・急性期医療の看護」(第7会場)
 一二人が発表。「まちづくり」では、血糖コントロールが困難な在宅患者を市の保健師や栄養士と協力して支援し改善した事例(青森)や、母親を介護する息 子が援助を拒否していたが訪問看護を受け入れた(神奈川)などの発表がありました。
 福岡・訪問看護ステーションわかばの新名敦さんは、独居の精神疾患患者二人の死亡を経験したと報告。「自殺の前兆と見られる破壊行動があったのに対処で きず後悔の念がある。在宅促進と言いながら地域のネットワークが未熟」と強調しました。愛知・南生協病院の助産師・市村啓子さんは、知的障害者の通勤寮で 三年連続で行っている性教育を紹介しました。
 「救急医療」では、ICUの面会時間制限を廃止して二四時間可能とし、心理・身体的支援につながった(東京)などの報告が。
 伊藤真弘医師(全日本民医連理事)は、「救急の現場は社会的・経済的な理由で受診が遅れた事例にも直面している。社会的な視点を持って現場で起きていることを発信してほしい」と発言しました。

10月13日

「職場づくりと看護管理の課題」(第2会場)
 「忘れられない患者さん」について振り返り一人一事例を発表して語り合うことで、看護観を深めることができた神奈川・大師診療所の経験、ポートフォリオ を使って中途採用者への支援を行っている愛媛生協病院の発表などがありました。
 透析を専門にしているすながわ相互診療所(東京)の看護師・菅原今日子さんは、東日本大震災を受けて避難訓練を繰り返し、そのつど見直して改善していると報告しました。

「患者・利用者の立場に立った看護・介護の実践」(第4会場)
 一〇演題の発表があり、「涙無しには聞けない」との感想も寄せられました。「喫茶店でコーヒーを飲みたい」という利用者の願いをかなえたとりくみから、 シャントトラブルを起こした人工透析患者への管理指導まで幅広い内容です。
 富山協立病院では認知症患者に癒やしを与えるタクティールケアを行い、問題行動の緩和や安定した睡眠につなげた事例を報告。非薬物療法のひとつとして今後も実践していくとのことでした。
 終末期の患者と家族の希望で、家族旅行を実現したのは東京・平和島訪問看護ステーション。間もなく患者は亡くなりましたが、遺族は「達成感でいっぱい。後悔はしていない」と話しました。
 会場では、超高齢化社会の中、私たちがどのように踏み出していくのかが議論されました。

「認定・専門看護師の活動/介護の専門性と育成の課題」(第8会場)
 中堅層の比率が高くなる中でモチベーションの低下が見られたことから、二〇一二年から中堅職員の研修を開始し改善した(福岡)など、介護の課題について五人が報告しました。
 長野・上伊那医療生協の竹澤利恵子さんは、「上伊那介護かきくけこ…感謝・気付き・工夫・健康・志高く」を理念に掲げ、職員一人につき一症例を目標に、 介護職でも学術運動交流集会をもつなど、学び合うとりくみを紹介しました。

「看護職の後継者確保と育成」(第9会場)
 深めたいこととして、座長が次の三点を提示しました。「事例を通じ育てる」「患者に寄り添うと共に職員にも寄り添えているか?」「民医連が総会方針で提起した『人間発達ができる組織』とは」。
 演題発表は一〇本。「新卒の離職は一〇年間ゼロ」という青森・健生病院からは、卒後の配属事業所を越えて「同期会」を組織。交流には時間も保障し、仲間 づくりのみならず、組織を運営する力も養えている、と報告しました。
 千葉・みはま訪問看護ステーションは、卒後二年目の看護師を受け入れ育てている経験を。「病棟勤務を何年か経て在宅へ配置する根拠は? むしろ在宅は看 護師の素地を育てる場になる」と、新卒受け入れへの意欲も語りました。
 宮崎生協病院の「パートナーシップナーシングシステム」の発表も注目されました。二人一組で業務にあたるこのシステムは、難しい技術が増えたことが導入 のきっかけでしたが、技術とともに「大事にしたい看護」の伝達にも効果があり新人の退職も出ていない、と報告されました。

教育講演

「地域包括ケアと多職種連携~高齢者の地域生活支援を考える」
 「きれめない看護・介護・福祉の輪」をテーマにした分科会では、青森県立大学講師の工藤英明さん(社会福祉学科)が、医療介護施策の流れとなっている「在宅・地域」でのケアに必要な視点を示しました。
 工藤さんはまず、高齢者ケアの概観を整理。高齢者ケアは医療中心の「急性期~回復期」と介護職も関わる「長期」のサイクルを幾度か経て、終末期に至りま す。そして日本ではそのケアサイクルの中で、利用者が自分の状態像に合う場~在宅や病院、施設など~に移らねばならないことが諸外国と異なっており、「生 きる手段に過ぎない医療に人生を左右されている」と矛盾を指摘しました。
 また多職種連携には、病態像で疾病改善を重視する医療職と、日常生活の障害に着目し生活の質を重視する介護職の視点の特徴を互いに理解しておくことの重 要性も強調。医療連携から地域連携へ、治療連携から生活連携へ、「その人らしい生き方の支援を」と呼びかけました。

「病棟・病院・地域のレベルから考えるチーム医療」
 青森・健生病院副院長の安田肇医師が「安全・安心・質向上をめざす看護・介護技術のとりくみとチーム医療の実践」の分科会で講演。同院でとりくむ病棟、病院、地域のチーム医療を紹介しました。
 病棟の例として、歯科衛生士がリハビリ科に勤務し看護師、言語聴覚士と協力して口腔ケアを実施、誤嚥性肺炎の再発を一〇分の一に減らしました。病院の例 では、多臓器不全患者の治療中止など判断が難しいケースについて、弁護士、宗教者ら外部委員を含む一一人の医療倫理委員会を設置。看護師で構成する倫理検 討委員会と連動して、患者、家族、医療チームで合意形成を図っています。
 病院と地域の例として、介護保険が始まる前にALS患者の在宅療養を実現したケースを紹介。病院と市が協力し、病院が訪問診療、保健所が訪問看護、市が ヘルパー派遣とサービス調整を担当しました。地域レベルの例として、病院のある弘前市が青森県内で国保資格証明書の交付数が多いことが分かり、病院と薬 局、市議会議員が改善に向けて市に働きかけている、と話しました。

「青森から憲法・平和・原発を考える」
 青森・八戸医療生協の内田弘志理事長が、「人権を守り、ともにたたかう看護、介護」の分科会で講演。青森県の現状から、原発と平和の問題を訴えました。
 青森の下北半島には大間原発や東通原発、核燃料の六ヶ所村再処理工場があり、“下北核半島”と呼ばれます。こうした施設で事故が起きれば被害は東京まで及びます。
 また、三沢市には米軍三沢基地、つがる市には米軍のミサイル防衛用レーダー「Xバンドレーダー」が設置され、“南の沖縄、北の青森”と言われるほど基地 問題も深刻。核施設と米軍基地の双方から県民のいのちが脅かされています。
 内田さんは「平和憲法を持ちながら戦争ができる国づくりへと動くのは、日米安保条約があるから。ともにたたかいましょう」と呼びかけました。集団的自衛 権行使容認の閣議決定に対しても「決してあきらめない」との決意を表明しました。

「民医連の医療・看護・介護活動と健康権SDH」
 青森民医連会長の伊藤真弘医師が「健康づくりを支援するためのまちづくりとヘルスプロモーション活動」の分科会で講演しました。
 伊藤さんは、WHOが先の大戦への痛烈な反省から健康権を提起した歴史を紹介。「無差別・平等の医療と福祉の実現」をめざし、「共同の営みとしての医療 と介護・福祉」をすすめる民医連の綱領に触れ、「民医連のめざすものと世界の健康実現の目標が重なってきている」と話しました。
 また、「健康の最大の敵は貧困であり、ヘルスプロモーションの究極の目標は平和である」とのHPHネットワークの文言を引用。所得や教育の格差、社会的 地位、労働環境、幼少期の環境などが健康指標に影響していると、具体的事例を引きながら紹介しました。
 民医連の特徴である共同組織や、民医連が提唱する「無差別・平等の地域包括ケア」についても解説。そのうえで、医療・福祉の現場を川の下流、患者・利用 者が健康を害する要因を上流に例え、「下流にいるからこそ見える現実がある。同時に上流で起きていることを知り、健康を害する要因も変える一員になろう」 と呼びかけました。

(民医連新聞 第1583号 2014年11月3日)