「入れ歯の日」に国会内懇談会 長時間労働・低所得 歯科技工士の労働環境改善を
「夢を持って歯科技工士になっても、去らざるをえない」―。「保険で良い歯科医療を」全国連絡会が国会内で開いた「歯科技工士問 題を考える懇談会」であがった声です。同会が「イレバの日」としている10月8日に行い、与野党の国会議員19人と歯科関係者約110人が出席しました。 歯科技工士に問題を絞った企画は同会初です。
歯科技工士は、歯科医師の指示のもと、義歯(入れ歯)や補綴物などの作成を担う国家資格です。「保険でより良い歯科医療を」兵庫連絡会の雨松真希人さんが歯科技工士の現状を報告しました。雨松さんは技工所を開業しています。
何が「問題」なのか
歯科技工士養成施設への入学者数は一〇年前の五四・五%に激減。それに加え、卒業後五年以内の離職が七五%、二〇~三〇代の離職率は約八〇%、担い手不足が懸念される事態です(図1)。
「歯科技工は『ブラック業界』といえるほど長時間労働で低収入の仕事です」。雨松さんは技工士が減る背景を語りました。
大阪府歯科保険医協会の調査によると、労働時間が週七〇時間以上という技工士は五〇・九%、歯科技工士一人の技工所(一人ラボ)ではその割合がさらに上昇(図2)。収入に関しては、年間の可処分所得が三〇〇万円以下の技工所が三七・五%。一人ラボの場合は五三・四%にも上ります。
雨松さんの同期で技工を続けている人もいまは一人に。離職は、経済的困難に加え、劣悪な労働で心身を追い込まれた結果です。
「保険点数で定められた歯科技工物の技工料も労働の対価には見合っていない。問題のおおもとは、国の低医療費政策」と、雨松さん。歯科医師は約一万人増 えていますが、歯科医療費は二〇年間増えていません。「この転換なしに、改善はありません」。
噛む力の維持は健康寿命の維持に大きくかかわること。そして噛む力の維持には良質な補綴物が作成されることが必要なこと。歯科技工士の役割は高齢化を迎 える日本でますます重要になっていることもこの場で確認されました。
技術を評価してほしい
東京の立川相互歯科で往診を担当する歯科衛生士・吉村三奈さんは、治療には歯科技工士が欠かせないことを、事例を示し語りました。同歯科では、患者が使いやすい義歯づくりをめざしています。
前歯の義歯を作った患者さんがいましたが、サイズが小さいため自分では扱えず、使えていませんでした。患者が自分で義歯が着脱できるかどうかは、全身状 態の維持だけでなく、介護者の負担軽減にも関わる重要な要素です。
歯科医師は義歯のサイズを大きくし、改良を試みました。ところが今度は義歯の前後の判別が患者には難しいという問題が浮上。そこで歯科技工士とともに、 義歯の装着装置を考案、患者は自分で義歯を扱えるようになりました。
他にも、手が使えない患者さんのために、足でも着脱可能な義歯を作ったこともあります。
吉村さんは「歯科技工士のこうした仕事が評価されていない」と指摘。「歯科技工士を置く歯科は全体の十数%。歯科医療を共に担う衛生士からも、行政に実態調査や改善を求めたい」と話しました。
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なおこの懇談後、連絡会は厚生労働省に歯科技工物技術料の保険点数の大幅引き上げ、歯科技工士の身分保障と医療としての位置づけなど五点で要請、意見交換も行いました。
(木下直子記者)
(民医連新聞 第1583号 2014年11月3日)