リアル社会を生きるゲイ職員の性講座(14) 文・杉山貴士 貧困とセクシュアリティ〈1〉
私の大学院での研究テーマは、「性的マイノリティの子どもたちが置かれる教育環境の考察」でした。当時、高校生や大学生の当事者の語りを集めて研究をしました。高校を中退したゲイのA(20歳)の語りが強く印象に残っています。当時の記録です。
「Aは実家を離れて、いまはゲイの友達のうちに居候。仕事を聞くと、『ミセコ(ゲイバーの店員)とウリ(※1)』。『だってお客さんが来てくれて、僕を 受け入れてくれる。そのほんの一時だけでも幸せな感じがするんだ。うちの親は俺をろくでなし扱いで、中退したら話もしなくなった。兄弟はみんな成功してる から、そっちがかわいいんだよ。俺みたいなのはいなくても気づかないみたいだし』。『ハッテン場(※2)来てればかならず誰かがかわいがってくれる。それ だけでもいいんだ』」。
家出して住所がない。社会保険にも入っていない。生活費は「ウリ」で得る。安全で確かな居場所もないから、リスキーなセックスで刹那のつながりを渇望す る―。この時は正直、彼らの話をただ聞くことしかできませんでした。具体的に何をすべきかも、わかりませんでした。
「ポジ(HIV陽性)になれば、絶対に裏切られないし」とすすんで感染し、つながりを求める話も聞いたことがあります。それまでの人間関係での裏切られた経験の積み重ねからでしょうか。
若年ゲイへの支援は学校教育でのとりくみが重要です。しかし卒業・中退で学校を離れれば、社会でどう自分の生活を作るかが必要になります。私が、教育へ の関心から社会、特に職場を通じてどう生活を作るかへ関心を移して性的マイノリティ支援を考えるようになったのは、紹介した事例のような人たちへの具体的 対応の必要性からです。家族関係が破綻しているゲイは少なくありません。寛容なセクシュアリティへの理解とともに、生活支援の具体的なスキルこそ必要で す。医療や福祉などの具体的な支援があってこそ、彼らは自分のセクシュアリティに向き合うこともできます。若年ゲイであれば、物心両面で必然的に貧困状態 となります。次回、貧困問題を掘り下げてみましょう。
※1ウリ…売り専、つまり売春
※2ハッテン場…ゲイが性交渉をするために集まる場
すぎやま・たかし 尼崎医療生活協同組合理事会事務局課長、法人無料低額診療事業事務局担当、社会福祉士。著書に『自分をさがそ。多様なセクシュアリティを生きる』新日本出版社、『「性の学び」と活かし方』日本機関紙出版センターほか
(民医連新聞 第1583号 2014年11月3日)