いのち守るたたかい地域から 「重度障害児の命 区別しないで!」 窓口無料の継続求めて――山梨
安倍政権の社会保障解体政策に対し「地域を主戦場にたたかおう」と全日本民医連は呼びかけています。半年後には全国で地方議員を選出する統一地方選挙があります。地方自治体を国の悪政から、くらしを守る防波堤に変えるチャンスです。各地の自治体運動を連載していきます。
一回目は山梨から。県が打ち出した重度障害児医療の改悪に対し、保護者や医療関係者らが、反対運動にとりくんでいます。(木下直子記者)
■突然、 窓口負担が…
山梨県では子どもの医療費は窓口無料です。ところが今年一一月から重度障害児だけ、いったん窓口で支払いが必要な「償還払い」に変わると昨年末判明しました。
「障害のない子どもの窓口無料は続け、なぜ障害児を切るの?」「受診抑制につながる」。保護者や医療者から異論が噴出しました。
これは、重度心身障害者の医療費が、現行の窓口無料から償還払い制に見直されることに連動したもの。山梨県では子どもの医療費窓口無料は、県の乳幼児医 療費助成事業補助金交付要綱に沿って市町村ごとに条例をつくり、行っています。しかし同要綱には重度障害があるか、ひとり親家庭の子の場合、そちらの制度 を優先して適用せよという定めがあるのです。
重度障害児ほど医療依存度は高く、患者負担も高額になります。三カ月後に還付されるとはいえ、受診には医療費の工面が必要になります。しかも、見守りや ケアが必要なため、保護者が十分働けず、世帯収入が低いことも珍しくありません。片時もじっとしていられない多動の子を連れ、会計待ちすることが大きな負 担になる場合も。窓口無料に最も助けられているといっていい重度障害児の世帯には、制度見直しは大きな打撃です。
■署名積み、親たちが要望
「複数の障害があるので複数の医療機関を受診し、小児リハにも通います。そのたび会計があるのは負担です」と、肢体不自由の子をバギーに乗せたお母さん。「先天性の心臓病で在宅酸素もしています。窓口負担が必要だと医療費は月一〇万円」と、若いお父さん。
九月一一日、「子どもの医療費窓口無料化を求める会」が行った対県交渉で、親たちが次々に発言し、制度継続を求めました。
障害児に関わる病院や施設からも職員が参加し、県に問いました。「要綱の【重度障害を優先】の条項を削れば済むではないか」(小児科医)。「親たちは 『障害があってもなくてもかわいいわが子』と葛藤しつつ障害を受け止めようとしている。そんな親たちに『子どもである前に障害児だ』と突きつける改悪だ」 (通園施設所長)。
県は「重度身心障害者医療費の見直しは窓口無料を実施する自治体に対し、国が課してくるペナルティー(国庫補助削減)を減らすため」、そして「手厚い障 害者医療制度を継続するため。障害者は一生医療費助成が受けられる」とこれまで通りの回答をするだけでした。
「窓口無料を求める運動をした時も、県はペナルティーを理由に応じませんでした。それでも〇八年度に無料化できた。今回の措置は日本が批准した障害者権 利条約にも逆行しませんか?」。代表の宇藤千枝子医師が鋭く問いました。
■あきらめずに
この場では七月に行った対県交渉での提出分とあわせ、二万八九七九筆超の署名を提出。目標の一万筆を大きく超える数です。話せば広がる署名でした。
LINEで知人に呼びかけた母親。幼い頃発症した脳炎で障害を負った孫のために奔走した祖母。大型商業施設前に立ち、署名を集めてくれた二〇代の障害者 もいました。多くの地元メディアが運動を好意的に報道しました。
「励まされました。一筆一筆が貴重です」と、四歳と六歳の重度障害児を一人で育てる雨宮絵里香さん。「だからなおさら県の姿勢にはがっかり。私が生きて いる間は、どんなことをしても子どもたちを守ります。でも私がいなくなった後も、子どもたちが安心して生きられるための制度が必要…」。その目にいっぱい 涙をためて語りました。
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「障害児の医療にあたり、子どもたちをかわいく思い、保護者の苦労も知る機会が多いから、放っておけません」と語る宇藤さんは石和共立病院の小児科医。 山梨県内には小児リハを行う医療機関が少なく、民医連で県内の小児リハ患者の半分を診ています。「患者さんの立場に立って動けるのが民医連医師。いっしょ にたたかう仲間も大勢います」。
山梨民医連では、この問題でセラピストたちが保護者アンケートをとったり、県医師会や開業医への働きかけもしています。遠藤隆事務局長は「地方選の争点にしてゆく方針。撤回させるまでやる」と話しています。
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