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民医連新聞

民医連新聞

知事選を前に いま、沖縄で問われていること

 沖縄県知事選が一一月一六日に行われます。全日本民医連は「建白書」の立場で辺野古新基地建設反対を掲げて立候補を表明した翁長 雄志(おながたけし)氏(前那覇市長)とともに、沖縄と日本の未来のためにたたかおうと呼びかけています。計画されている新基地は最新鋭の巨大施設で、完 成すればここから米軍が世界に出撃します。米国とともに「戦争する国づくり」をすすめる安倍政権を許していいのか、知事選は全国の課題です。(新井健治記 者)

 選挙は辺野古新基地建設を認めた現職の仲井眞弘多(なかいまひろかず)氏も出馬を表明。基 地にYESかNOかを問うたたかいです。昨年一月、県内全四一市町村長らが署名し普天間基地撤去と県内移設断念などを訴えた「建白書」を安倍首相に手渡し た翁長氏。自民党県連幹事長を務め、前回は仲井眞氏の選対本部長と保守政界のリーダーですが、今は基地を許さない“オール沖縄”の先頭に立っています。
 知事選はこれまで、保守対革新の争いでした。「もう、基地はいらない」という県民の怒りが、初めて従来の構図を乗り越え、沖縄の新たな歴史を切り開くた たかいになったのです。九月二〇日の辺野古県民集会は五五〇〇人、一〇月九日の県庁包囲行動も三八〇〇人が参加、島ぐるみで運動が盛り上がっています。
 辺野古のある名護市では今年一月の市長選で、基地反対の稲嶺進市長が推進派を引き離し再選。九月の市議選では基地反対の与党が過半数を維持しました。地 元マスコミの世論調査でも県民の八割が反対ですが、安倍政権は七月から強引に基地建設を始めました。
 沖縄民医連は基地のない平和な沖縄をめざし、知事選に勝利しようと七月に五者共闘(県連、にじの会、沖縄健康企画、メディコープおきなわ、沖縄医療生協労組)を結成。全国からも続々と支援が来ています。

基地が生んだ沖縄の貧困

 県民は米軍機の墜落や米兵の犯罪などにより、危険にさらされてきました。もうひとつ、基地 は貧困という形でも県民の生存権を脅かしています。沖縄の貧困を研究する岐阜経済大学准教授の高木博史さんは「基地の集中により産業構造の硬直化と疲弊が すすんでいる。慢性的・恒常的な貧困状態は本土以上です」と指摘します。
 沖縄は県民所得が全国最低で、失業率は全国一(表1)。まちの一等地を占める基地が経済構造に影響し、サービス業(第三次産業)以外の産業が育っていま せん。事業所の開業率と廃業率はともに全国一位と不安定で、安定した仕事を探すのが困難です。
 県民は戦後、基地の拡張で土地も家も奪われ、著しい貧困状態に陥りました。「おじい、おばあの時代の貧困が連鎖しているケースも」と高木さん。
 出生率と離婚率が高いのも特徴。若くして子どもを産み、母子家庭になる割合が高いので子どもの貧困も深刻です。個々の収入が少ないため、一世帯に子ども と親戚、知人が同居し、なんとか暮らしている例も珍しくありません。高校、大学進学率とも全国最低で貧困が再生産されています。
 高木さんは「基地が注目される一方、生活困窮者を支援する団体が少なく、貧困というもう一つの社会問題が顕在化しません」と指摘。生活保護以下の水準でも保護につながっていない深刻なケースが放置されています。
 高木さんは那覇市で生活困窮者を支援するNPO法人「いっぽいっぽの会」の共同代表も務めています。同会には生活保護や福祉制度につながることができない“制度の狭間”にある人が相談を寄せます。
 同会スタッフのAさん(42)は元路上生活者で、会に助けを求めた一人です。派遣社員として東京や大阪を転々。沖縄に戻っても仕事がなく、貯金も尽きて 公園で生活したことも。「同じように本土に出稼ぎに行く県民は多い」とAさん。沖縄では、一定期間を本土で働く期間工を意味する「季節」という言葉が若者 に定着しています。
 高木さんは「基地がらみの予算は“箱物”に投入され、福祉や教育が軽視されます。県民の生存権を守るため、沖縄の貧困の実態を明らかにするとともに、基地は撤去すべき」と語ります。
 「基地がなければ沖縄の経済は立ちゆかない」という考え方が、推進派や容認派の根拠でした。しかし、これは誤りです。本土復帰直後は基地関連収入が二 五%を占めた沖縄も、今や県民総所得の五%に過ぎません。基地がなくても経済は成り立っており、「むしろ基地は経済発展の阻害要因」と、今回初めて地元経 済界からも声が挙がりました(下項)。
 表2は基地撤去前後の地域の変化です。那覇新都心は基地撤去後に雇用者数が一六五倍、経済効果が一六倍にも。基地があるために、県民が貧困から抜け出せない構図は明らかです。

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平和へ最前線のたたかい

 名護市の稲嶺市長は四年前、辺野古新基地建設反対を掲げて初当選しました。日本政府は基地交付金をストップしましたが、市職員が知恵を絞って財源を生み出し、市民生活は向上しました。
 「この四年でびっくりするくらい市政が良くなった。以前は学校のトイレが壊れても直してもらえなかったが、稲嶺さんが市長になったとたん修理に来まし た。要はお金の使い方だったんですね」と話すのは、沖縄医療生協名護支部組合員で元小学校教諭の上野郁子さん。「基地のお金は人をだめにする。翁長さんの 勝利で、もう基地はいらないという声を安倍政権に届けたい」。
 名護市のやんばる協同クリニック・山田義勝事務長は「基地を承認した仲井眞知事に対し『絶対に許せない』と、患者さんからも怒りがわき上がっています。 新基地建設を止めるため、『自分にも何かできることはないか』との問い合わせも多い」と言います。
 沖縄民医連の比嘉努事務局長は「戦争か平和かを問う最前線のたたかいが、沖縄で繰り広げられています。辺野古を見て沖縄の現実を学んでほしい。全国から支援をお願いします」と呼びかけます。


経済界も「基地いらぬ」

かりゆしグループCEO 平良朝敬さん

基地は経済発展の阻害要因

 これまで基地へのスタンスを語らなかった経済界からも、撤去に立ち上がる動きが。沖縄最大の観光業「かりゆしグループ」CEOの平良朝敬さんもその一人です。

 かつては私も普天間基地の辺野古移設を容認していました。しかし、沖縄を取り巻く環境は経済的にも軍事的にも大きく変わった。沖縄は堂々と「基地はいらない」と言える時代が来たのです。
観光は平和産業です。オスプレイが上空を舞う島に、お客さんが来たいと思いますか? もともと基地は必要ないと思っていましたが、それを公然と言える環境 が整った。県内には那覇新都心、北谷町など基地撤去後に発展したまち(表2)がたくさんできました。目に見える形で経済効果が分かるから、現実路線として 基地撤去を掲げられるのです。

アジアの一大拠点に

 沖縄は観光と物流でアジアの一大拠点になる可能性を秘めています。沖縄を起点に半径三〇〇 〇kmの範囲に中国、韓国、台湾、フィリピンなど二〇億人の巨大な市場があります。島の地理的優位性から基地があるわけですが、この優位性を経済で活かせ ば大いに発展できる。沖縄が経済的に自立する機は熟しています。
那覇空港には三七路線があり、日本国内とは二四路線で結ばれています。たとえば、全国の新鮮な魚介類が夜中に那覇空港に届けば、翌朝七時には香港やシンガ ポールの市場の競りに間に合う。アジアのハブ空港になれるのです。
辺野古新基地建設は断固阻止。それだけにとどまらず、辺野古岬の基地「キャンプ・シュワブ」を返還せよ、と訴えたい。岬には基地の“おかげ”で、約二〇平 方キロもの手つかずの自然が残っています。ここをアジアの“楽園”にすればどうでしょう。キャンプ・シュワブの雇用はわずか二四三人。ホテル一〇棟が建つ だけで一万人の雇用を生む。基地を撤去すれば夢が広がります。もはや基地は経済発展の阻害要因です。

摩擦生む集団的自衛権

 辺野古に新基地ができたら、中国や韓国に脅威を与えます。沖縄は琉球王国の時代から、明、清や薩摩藩と分け隔てなく仲良くしてきました。中国の脅威なんて、沖縄県民の大多数が感じていません。隣国と仲良くできなくて、どうやって自国を守るのですか?
私は自衛隊にも安保にも賛成ですが、集団的自衛権は必要ないと考えています。海外で戦争する国になれば、自衛隊員の応募が減り、待っているのは徴兵制です。
沖縄の民意は日本政府に無視されています。差別ならまだましで、無視は辛い。沖縄の基地は本土では他人事なのでしょうか。知事選に圧倒的な票差で勝つことで、日本政府と米国を変えたい。
辺野古新基地は二〇〇年も使用が可能。このまま基地に占領され続けるのか、それとも撤去して発展するのか。知事選は沖縄一〇〇年の大計、一九七二年の本土 復帰に匹敵する大きな運動です。全国の皆さんも注目してください。