第12回全日本民医連 共同組織活動交流集会in近畿 記念講演・宇都宮健児さん “微力”を集めて憲法生かそう
集会では、宇都宮健児弁護士が「憲法を守り、生かそう! 安倍政権の暴走をストップさせ、憲法改悪を許さないために」と題して記念講演しました。要旨を紹介します。
国民の命や健康を守る医療関係者と、国民の人権を守る弁護士が運動を広げることは、集会スローガンにあるように「平和でいのちが守られる、人間らしい生活が守られる」土台をつくる上で重要です。
■9条と25条が―
国民の命や暮らし、平和を守る基本である憲法九条、二五条を破壊しようとしているのが安倍政権です。
まず原発の問題です。いまだに一三万人もの原発事故被害者が故郷に帰れず生活再建のめどもたたぬまま、避難生活を送っています。政府がやるべきは被災者 の救済と事故収束なのに、再稼働や輸出、新設などをやろうと言う。
一矢報いたのが、五月に福井地裁が出した大飯原発の再稼働差し止め判決でした。憲法一三条と二五条に基づく人格権が脅かされている場合は原発の差し止めができるという内容です。
被告の関西電力は、「原発がないと電気代が上がる」「火力発電のエネルギー源の石油や天然ガスの輸入で貿易赤字になる」と反論してきました。それに対し て判決は、「人の生存の問題と電気代の問題を、同列に論ずることは法的に許されない」と断罪しています。
この判決が最高裁で確定すれば、安倍総理が再稼働させたくてもできません。この裁判闘争も国民的なものにすることが大切です。
■国民生活にひずみ
安倍さんは社会保障改悪をすすめており、日本社会では今、貧困が広がっています。
二〇一〇年から一二年にかけて貧困率は一六%から一六・一%に、子どもの貧困率は一五・七%から一六・三%と過去最悪に。ひとり親家庭の二世帯に一世帯が貧困状態です。
昨年の国会で生活保護基準を大幅に引き下げ、三年間で六七〇億円を削減すると決めました。平均六・二%、最大一〇%もの引き下げで、もっとも打撃が大き いのは子育て世帯です。「うちは月二〇〇〇円下げられた。一家の三日分の食費だ」と語る生保利用者も。さらに住宅扶助を引き下げる動きまであります。
生保の利用者は二一六万人、日本の全人口の一・六~一・七%です。生保基準に届かない収入の人のうち、実際に利用している人は二割、厚労省の調査でも三割にとどまります。
昨年五月、大阪市内で母子の餓死事件がありました。請求書の裏に「お腹いっぱい食べさせられなくてごめんね」とメモがあった。生保が使えていれば、死な なくてすんだのです。必要な人の七~八割が生活保護を利用できていないという事態は深刻です。憲法二五条の生存権が行使されていないということです。
労働者派遣を無期限にすることや「残業代ゼロ法案」などの雇用破壊、農業や医療を壊すTPP参加、新自由主義的な規制緩和、教育への介入など、安倍政権の暴走はとどまるところを知りません。
■日本国憲法の力
安倍政権は今年七月、集団的自衛権行使容認の閣議決定をしました。日本が攻撃されていなくても同盟国が攻撃されたら参戦する、というものです。
イラク戦争で日本は自衛隊を派遣しましたが、犠牲者を出さず、誰も殺していません。戦争地域での戦闘行為は、九条違反になり、できなかったからです。安 倍総理はこれを変えるため、秘密保護法、武器輸出三原則の変更などすすめています。
これらの動きはピンチですが、日本社会に改めて日本国憲法の原理を定着させるチャンスでもあります。政治や憲法に関心の薄かった人たちが目を向け、「権 力を縛るのが立憲主義だ」と多くの人が知るようになりました。
もっとも重要なのは生命で、それを危うくするものは戦争です。だから平和主義が大事なのです。
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戦争に行くのは若い人です。安倍政権の暴走をストップさせる柔軟な運動を一緒に広げましょう。
私たちは微力ですが無力ではありません。無力はいくら集まってもゼロですが、微力は集まれば集まるほど大きくなる。平和な社会を次の世代に伝えていくた めに、私も微力の一人としてがんばります。
うつのみや・けんじ 1946年、愛媛県生まれ。高金利引き下げ運動の先頭に立ち、地下鉄サリン事件被害対策弁護団団長を務める。前日本弁護士連合会会長、「反貧困ネットワーク」代表。2012年、14年に東京都知事選挙に出馬。