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民医連新聞

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無低診を通して見えるもの《地域の連携》 就学援助世帯は審査不要に 市内実施病院と知恵合わせ広げる 長崎・健友会

 シリーズ五回目は、民医連外の医療機関や行政との連携。連携で無料低額診療事業がより有効に使われ始めています。長崎・健友会は 二〇〇九年に一病院三診療所で無低診を開始。他の実施医療機関と連携し、「就学援助を受けている世帯なら審査なしで無低診を適用する」との申し合わせもし ています。(丸山聡子記者)

 「子どものことで精一杯、自分のことは後回し。無低診のおかげで、やっと治療できるように なりました」。三上春香さん=仮名(49)は言います。現在、花丘診療所で無低診を利用して治療中です。三上さんには子どもが七人います。次々と熱を出し たり、急な入院で教育費の貯蓄を取り崩したり…。疲労が蓄積し、身体のあちこちが痛みます。通勤途上で意識を失って倒れてしまったこともあります。
 きっかけは三年前。娘さんがケガをした時、時間外で受け入れたのが花丘診療所でした。「その時に事務の方が『就学援助を受けているなら無低診が使えますよ』と教えてくれて…」と三上さん。
 「医療費は三割負担が当たり前だったので、最初は半信半疑でしたが、本当に免除になってホッとしました」。

済生会と合同会議

 健友会では〇九年九月に無低診を始めたものの、一年目の利用は一二件、翌年になっても五二 件にとどまりました。そんな中、一一年に済生会からの呼びかけで、無低診を実施する市内四カ所の医療機関の合同会議を開催。二カ所は離脱しましたが、済生 会と健友会の連携が始まりました。
 無低診の利用を広げ、法人を超えて利用できないか議論。「共通のモノサシ」を検討したところ、両法人の無低診の基準が長崎市の就学援助の基準(生活保護 基準の一・二倍)と同水準だったため、「就学援助世帯は子ども本人と家族全員を無低診の対象」とし、審査は省略して適用にすることで一致。市・県も了承し ました。
 済生会の要請で一一年度から、長崎市と隣接する長与町、時津町では、就学援助の家庭に送付する決定通知に両法人の無低診事業のパンフを同封することに (計約九二〇〇世帯)。「通知が届く六月から問い合わせが殺到します」と上戸町病院SWの岡田武さん。無低診の利用は一三年度には一気に一七七六件まで増 えました。利用者の八割は就学援助世帯です。
 健友会と済生会のいずれかで無低診適用となった就学援助世帯の患者は、もう一方でも審査なしで無低診を利用できます。法人本部の岡田孝裕さんは「急性期 で済生会病院に入院していた患者さんが慢性期に移行した時、私たちの事業所への引き継ぎがスムーズです」と言います。
 三上さんの末娘は今年、甲状腺疾患と診断されました。健友会では小児の入院ができないため、済生会に転院。これまで同様、無低診で入院治療をしています。

「医療の原点」だ

 連携を牽引した済生会長崎病院の当時の院長・和泉元衛医師は、健友会が無低診を開始した頃と時を同じくして、あるケースを機に貧困問題に注目するようになりました。
 〇八年、小学校から「インフルエンザにかかった児童が、お金がなくて病院にかかれないようだ。診てもらえないか」と相談されたのです。「“貧しい人はほ とんどいない”と思い込んでいたので、そんなことが? と驚きました」。敗戦直後の荒廃期、済生会は貧しい人に医療を行うことを使命にし、無低診に打ち込 みました。しかしその後、利用者が激減していたのです。
 それから和泉さんは、経済的困難の場合に利用できる就学援助を受給する世帯が市内で約二割、中には四割にのぼる小学校もあると知りました。この現実に、積極的に無低診を広げようと考えたのです。
 「お金のない人は受診をがまんしますから、病院で待っていても来ません。どうしたらいいか考え、就学援助に着目しました」と和泉さん。「民医連の人たちは、持ちかけるとすぐ動いてくれました」。
 また連携を通じ、民医連が掲げる「無差別・平等の医療・福祉」を知り、「これこそ医療の本質であり原点だと感動した」と。済生会を退職後は、花丘診療所での診療にも参加してくれています。

“困難”に気づくため

 長崎市の国保加入世帯の八割が年収二〇〇万円以下で、国保税滞納は一四%にのぼります。就学援助の世帯は二二・六五%です。
 大浦診療所の石田俊一事務次長は、「六〇代の夫婦とリストラされた息子、孫の四人暮らしの世帯は、魚の行商で得る約三万円でひと月暮らしています。家賃 も国保税も滞納。無低診で医療費は何とかなっても、生活全般は困難なまま。生活保護バッシングを恐れ、生保申請は拒否。こうした事例が増えています」と懸 念します。
 就学援助世帯は審査なしにしたことで、患者さんは利用しやすくなりました。ただ、審査がないことで「暮らしぶりや生活の背景の聞き取りが難しくなった」(SW・岡田さん)という課題も浮上しています。
 健友会では「一職場一事例」検討会を重視。事例をもとに、背景にある社会保障の不備や働き方の変化などを学んでいます。
 新患用の問診票に「就学援助」「非課税」「身障手帳」「短期保険証・資格証明書」「母子家庭等」などの項目を設け、生活困難にいち早く気づけるよう工夫 しています。「気づいたら担当者に連絡するようにしていますが、全ての職員が相談にあたれるようになるのが目標です」と、石田さんは話しています。

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 健友会は、五島列島の五島ふれあい診療所でも無低診実施をめざしてきました。自治体担当者に「無差別・平等の医療・福祉」をうたった民医連綱領を示して説明し、納得を得られました。まもなく民医連で三四一カ所目の無低診実施事業所となる見込みです。