フォーカス 私たちの実践 尿失禁予防 山形・認知症対応型通所介護「楽楽」 排泄リズムつかみトイレ誘導 “失敗”減り意欲わく
病棟や介護施設では、利用者の排泄が困難になってきたとき、どのようなケアを行うのか、大きな課題です。山形の認知症対応型通所介護「楽楽(らら)」では、尿失禁を繰り返すようになった利用者にトイレ誘導の方法などを見直し、失禁を予防しています。
八年前にスタートした楽楽は、定員一二人。利用者の平均要介護度は3で、通常は一日七~一〇人程度の方が利用しています。
多くの高齢者は、加齢や障害から尿意が鈍くなり、失禁の頻度が高まります。失禁が増えると、すぐにオムツやリハビリパンツなどの排泄用品を導入していま した。これを見直すきっかけとなったのは、Aさんのケースです。
「パットやオムツなど、安易な排泄用品の導入が利用者の意欲を低下させ、寝たきりの生活につながっているのではないかと考えました」と、介護福祉士の飯白美幸さんは振り返ります。
排泄アセスメントを実施
楽楽開設当初から利用しているAさん(九〇代、女性)は、要介護3で、認知症の日常生活自立度はIIIb(行動や意思疎通に困難があり介護が必要。食事、着替え、排泄などが十分にできない)です。同居する娘夫婦は働いており、日中独居です。
自発的にトイレに行っていましたが、二〇一一年夏頃から自宅で日中の失禁が多くなり、リハビリパンツを利用。当初は楽楽での失禁はなく、三時間ごとのト イレ誘導で対応していましたが、一年後には楽楽でも失禁するように。
そこでAさんの排泄アセスメントを実施しました。トイレ誘導の時間を見直すことにしました。「尿パットも使ったのですが、Aさんは日中独居のため、自分 でパットを処理できないという問題が。そこで、パットを使うのではなく、自力でトイレに行けないかと考えました」と、管理者の斎藤美和さん。
アセスメントは二週間にわたって実施。それまで三時間ごとだったトイレ誘導を二時間ごとに変更し、そのつど、失禁や排尿の有無を記録しました。二時間ご とのトイレ誘導では効果はありませんでしたが、一時間ごとにすると、誘導のたびに排尿することが増え、失禁が減少。トイレ誘導は一時間ごとにしました。
Aさんの排泄チェック表 |
コミュニケーションが増え
当初、一時間ごとに声をかけることはAさんの負担になるのでは? との懸念もありました。 しかし、トイレ以外は座っていることが多かったAさんが、頻繁にトイレに立つことで、下肢筋力の維持につながりました。また、トイレへは職員が手を引いて 行くため、コミュニケーションも増え、表情が柔和になり、言葉を発することも多くなりました。
自発的にトイレに行くことはないものの、次第に、排泄時に自ら「出ました」「まだです」と言ったり、誘導しようとすると「今は出ないから大丈夫」と言う ようになりました。「話すことが少ないAさんでしたが、職員に対して意思表示をするようになりました」と斎藤さん。
楽楽での失禁が減少したことを受け、一人で自宅にいる日中も自力で排泄できるように、楽楽でも自宅のトイレ環境に近づけ、排泄後の片付けを自分でできる ように練習しました。完全とは言えないものの、「自宅でも、声をかけると自分で片付けを行おうとするようになってきた」と、家族からも報告がありました。
飯白さんは、「通所での失禁を予防することで、本人の不快感を軽減し、意欲の向上にもつながったと思います」と話します。
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Aさんのケース以降、他の利用者の排泄の援助方法も見直し、その人に応じた時間でトイレに 誘導しています。排泄ケアに対するスタッフの意識も変わってきました。飯白さんは、「利用者さんの身体状況を把握することの重要性を学びました。自立に向 けたきめ細かいケアを行うために、職員間で情報を共有することが大切だと改めて感じました。トイレでの排泄は生きていく上でとても大事。さらに意識と技術 を高め、支援していきたい」と話しています。
(民医連新聞 第1579号 2014年9月1日)