リアル社会を生きるゲイ職員の性講座(10) 文・杉山貴士 性的マイノリティの人権確立のための視点〈1〉
性的マイノリティの人権が確立するには、当事者が声を上げる社会運動が大きな力となりました。私自身も運動を知り、参画することで自己回復できたと感じています。
1994年に日本初のゲイパレードがありました。20年が経過し、パレードのあり方も大きく変化。いまや、東京でのゲイのイベントには外資系企業や各国 大使館なども協賛するまでになりました。「すごい広がりだ」と思う反面、地域や職場で働く当事者の声を本当に汲んだ運動になっているのか…と感じていま す。
イベントに参加する当事者は増えましたが、彼らがパレードを終えて地域や職場に戻ったとき、日常生活はどうでしょうか。多くは「ノンケ生活」(※1)に戻らざるを得ないのが現実だと思います。生活がかかっているから事を荒立てたくない。私も以前の職場ではそうでした。セクシュアリティを素直に出すには、本人に経済的基盤がないと難しいのです。
昨今、LGBT(性的少数者)市場は「国内5.7兆円」などと注目されています。DINKs(※2)の可能性を秘めている性的マイノリティは「市場価値がある」ようです。そうした思惑から「同性婚を認めよ」と主張する動きもあります。しかし非正規雇用が40%に迫り、格差と貧困が広がる今、結婚を望む双方ともに非正規の場合も多いのが現実です。
ですから、LGBTのイベントに協賛したり、「同性婚を認めよ」と主張する企業などの動きには、「組織や地域で働く当事者の声を反映しているか?」と考えてみる必要があります。
当事者がメディアに出て主張することもできますが、職場で日常的に仲間と対話を重ね、職場の声として主張や提案をしていく…。それはとても難しいことだと、民医連で働く私自身も感じています。
「市場価値としての性的マイノリティ」はどんな意味なのか、また考えてみましょう。
※1 ノンケ生活…ノンケとは「そのケ(同性愛指向)がない」の意味で、異性愛者のふりをして生活すること
※2 DINKs…Double Income No Kidsの略。子どもを持たず、夫婦とも職業活動に従事するライフスタイル
すぎやま・たかし 尼崎医療生活協同組合理事会事務局課長、法人無料低額診療事業事務局担当、社会福祉士。著書に『自分をさがそ。多様なセクシュアリティを生きる』新日本出版社、『「性の学び」と活かし方』日本機関紙出版センターほか
(民医連新聞 第1579号 2014年9月1日)