リアル社会を生きるゲイ職員の性講座(9) 文・杉山貴士 同性愛の歴史社会学から〈2〉 人権としての性
同性愛は近年まで、罪や精神病と位置付けられてきました。しかし同性愛の当事者が主張することで、生活者としての声が社会に広がりました。「語ら れる立場」から「語る立場」に変わり、レッテルを剥がしたのです。1969年の「ストンウォール事件」(警察によるゲイバーへの弾圧を機に反発した当事者 が立ち上がった)は、抑圧された当事者の現状や怒りを世に知らしめ、全米各地、世界に運動を広げるきっかけになりました。『ゲイの市長と呼ばれた男』の ハーヴェイ・ミルクがサンフランシスコ市議会に登場したのはそのころです。
1980年代にエイズが「ゲイの奇病」として広まると事態は変化。当初エイズはゲイキャンサーといわれ、ゲイではない人には関係ないとされたため、対策 も遅れました。ゲイコミュニティーは多くの仲間を失いましたが、結束も生まれました。
「人権としての同性愛の語り」は、精神医学にも影響を与え、アメリカ精神医学会は精神疾患から削除し、同性愛は「多様な人間の性的指向のひとつ」となりました。
日本でゲイの社会運動がすすんだのは90年代から。メディアが取り上げる機会も増えました。しかし、奇異な目で見られることも多く、教育現場では「性非 行」として下着泥棒と同等に扱われました(文部省『生徒の問題行動に関する基礎資料』より。のちに削除)。同性愛のグループの宿泊を拒否したことで裁判闘 争にもなった「府中青年の家事件」(当連載(2)参照)は、当事者の声を真摯に受け入れ、「人権としての同性愛」の確立に大きく寄与しました。
同性愛が精神疾患からはずされた一方、「性同一性障害」はどうでしょう。「『変態』と呼ばれていたのが『性同一性障害』という名前をもらい、疾病・障害 になることで医療の対象となり、治療や手術ができる」と話す当事者もいます。確かにそうでしょう。同性愛が人権になるまで歴史的変遷をたどったように、い ま「性同一性障害」は「性別違和」にすすんでいるのかもしれません。
性的マイノリティの人権確立をめざす運動はどう展開しているのか? 次回、現状と課題を整理しましょう。
すぎやま・たかし 尼崎医療生活協同組合理事会事務局課長、法人無料低額診療事業事務局担当、社会福祉士。著書に『自分をさがそ。多様なセクシュアリティを生きる』新日本出版社、『「性の学び」と活かし方』日本機関紙出版センターほか
(民医連新聞 第1578号 2014年8月18日)