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民医連新聞

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ノーモア・ヒバクシャ訴訟 原爆被害に目をつぶるな 京都発/原告ささえる民医連職員

 アメリカが広島・長崎に原子爆弾を落としてから六九年。被爆者は高齢化し、いっそう健康問題に悩まされています。原爆症認定集団 訴訟の終結から五年が経っても、心身に刻まれた苦しみを「原爆のため」と公的に認められず、年老いた被爆者たちはたたかい続けるしかありません。各地で原 告をささえるのは、医師をはじめ民医連職員です。(丸山聡子記者)

 「被爆の苦しみ、差別・偏見…。それを診察室で語ることは、ものすごく覚悟のいることで しょう。それを聞き、診た以上、医師には被爆者とともに歩む責任があります」。京都・あさくら診療所の河本一成所長は言います。二〇〇九年に始まったノー モア・ヒバクシャ訴訟に加わり、被爆者を診るかたわら主治医意見書を書いたり、法廷で証言もしています。
 河本さんの原点は一九九六年、研修医一年目の時に訪れた広島です。「こんな残酷なことを人間がするのか―と、怒りと悲しみがないまぜになって胸に迫りま した」と振り返ります。長年、被爆者医療を担ってきた民医連の先輩医師にも刺激を受けました。「医学的に明らかでない問題でも、目の前に苦しむ患者さんが いたら必死で診る。そういう医師の一員になりたいと思ったのです」。

被爆者に背を向け続ける

 被爆者約二〇万人のうち、原爆症と認定された人はわずか四%。〇三年から全国で始まった原爆症認定集団訴訟は〇九年に原告の勝訴が確定、終結しました。三〇を超す敗訴を重ねた国は「新しい審査の方針」を決定。「“積極的認定”に転じる」としました。
 しかし実際は、認定者の九割は悪性腫瘍に偏り、入市被爆(原爆投下から二週間以内に被爆地に入り被爆すること)で非がん疾患について申請した人は一人も 認定されないなど、内部被爆と残留放射線による影響を著しく軽視。再び被爆者は「ノーモア・ヒバクシャ訴訟」に立ち上がり、現在、七地裁(東京、名古屋、 大阪、岡山、広島、長崎、熊本)で一〇九人が原爆症認定を求めています。
 原水爆禁止京都協議会の小杉功事務局長は、「被爆者は被爆したことを一日たりとも忘れず、自分の病気は原爆のせいではないかと苦しんできた。それを国は 一片の紙で却下する。被爆者たちは納得できないのです」と話します。

“私の病気は何なのだ?”

 京都府内に住む木村勇一さん(七一=仮名)もその一人。三〇代で十二指腸潰瘍、甲状腺の腫瘍に苦しみ、四〇代後半から糖尿病を発症。「不安や苦しみは収まるどころか増幅しています」と言います。〇九年に原爆症認定を申請しましたが、却下されました。
 木村さんは二歳の時、爆心地から一・五~二キロにあった広島市内の自宅で母と一緒に被爆。母は洗濯物を干し、木村さんは玄関先で遊んでいました。いった ん避難するも、その日のうちに自宅の防空壕に戻り、高校を卒業するまでそこで暮らしました。「麦やイモ、野菜など、コメ以外は庭で育てたもの。直接被爆 し、その後も放射能に汚染された作物を食べ続けて、影響を受けないわけがない」。
 母は五〇代で重度の再生不良性貧血で入院。その後、糖尿病を発症。「貧血はないが、ほかの病気は母と同じ。母のように苦しむのか、原爆が母の身体にどう影響したのか、知りたい」と木村さん。
 子や孫への影響も心配です。「私の病気は何なのだ? という思い。被爆一世の私の病気が原爆によるものと認められなければ、将来、二世や三世に健康被害 が出ても認められず、支援は受けられないのでは」と危惧しています。「国は被爆者支援というなら次世代への不安を払拭してほしい」。

心と体に刻まれた苦しみ

 木村さんの主治医意見書を書いたのが河本さんです。非がん疾患の糖尿病、肝炎などで申請した木村さん。「糖尿病を原爆によると言ってくれる医師はほかにいませんでした。河本先生は被爆に詳しく被爆者を支援しようという思いがある」と信頼を寄せます。
 木村さんのような「非がん疾患」は原爆症認定の焦点の一つ。河本さんは言い切ります。「心と体に刻み込まれた苦しみは全て原爆の影響だと考えています。 今の段階で被爆との因果関係が明確でないなら、救済は人道的、倫理的に考えるべきです」。
 診療所では、所長の河本さんが裁判に専念できるようサポート。福島からの避難者への健診にもスタッフ総出で参加しています。

福島への波及を恐れる国

宮原哲朗弁護士(原爆症認定集団訴訟全国弁護団連絡会事務局長)
 新しい審査の方針を改定した昨年一二月以降、認定却下、裁判で負けたら控訴というように、国は大きな抵抗を示しています。
 国の準備書面や三五人の専門家が五月に発表した意見書は、内部被ばくと残留放射線による影響を極力小さく見せようとしています。福島原発事故を意識し、 牽制する動きです。原発事故では内部被ばくと残留放射線が問題になります。原爆症訴訟で国が敗訴した判決は全てで残留放射線の影響を認めています。国は、 「これを放置したら福島に影響が出る。それは避けたい」との立場です。
 原爆被害は過去の話ではなく、今につながる問題。被爆の実相を積み重ね、運動を広げましょう。

(民医連新聞 第1577号 2014年8月4日)

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