無低診を通して見えるもの《保険薬局》 薬代、治療中断の原因に自治体に助成も止めて 山口民医連
シリーズ三回目は保険薬局。保険薬局では無料低額診療事業(無低診)が行えないため、無低診を適用された患者が院外処方の自己負 担が原因で治療を中断するケースもあります。一方、民医連の運動で、保険薬局で処方される無低診患者の薬代を独自助成する自治体が全国に四市存在していま す。こうした運動に学び、とりくむ山口民医連を取材しました。(新井健治記者)
山口民医連では医科、歯科五つの事業所全てで無低診を実施しています。「あおば薬局」薬局 長の歌川範代さんは「宇部協立病院が無低診を始めてから、経済的に困難な患者さんが途切れることなく来局します。糖尿病やリウマチは薬価が高く治療を中断 する傾向があります」と指摘します。
治療中断の対策として、一カ月来局しない患者には返信用はがきを送り、理由を尋ねています。返事がなかったり、気になる記述があった患者には電話を、それでも連絡がつかなければ自宅への訪問も行います。
外来終了後に病院で毎日行っている多職種カンファレンスや在宅での服薬指導を通じて、気になる患者の情報を共有。「インスリン用注射針が処方されていな かったことで、間引き使用が分かったこともあります」と歌川さん。
宇部協立病院のSW・久我麻里子さんは「『親族に後ろめたい』などといった理由で、生活保護を申請しない患者さんが増えています。四〇代でも職が無く、病状を悪化させている人が多い」と言います。
請願運動にとりくんだが
県連は一昨年、保険薬局でも無低診を行えるよう国への働きかけを求める請願を宇部市議会に提出。共産党以外の反対で不採択になると、今度は生協小野田診療所のある山陽小野田市に請願提出の準備を始め、署名も集めました。
請願項目は(1)山陽小野田市民病院が無低診を行うよう市長が働きかける(2)薬局が無低診の対象になるよう国に働きかける(3)薬代の助成制度を設け る、の三点。(1)は経済的理由による受診抑制を市全体の問題とするために設けました。
六月議会への請願提出に向け、四月に市議会議員と「市民懇談会」を開催。民生福祉常任委員の七人全員が出席し、県連の菖蒲順一郎事務局長らが無低診の説 明をしました。出席市議から「市民の認知度が低く、実施機関も少ない理由は」「三割の自己負担分は医療機関の持ち出し。固定資産税減免以上のメリットがな いと、他の医療機関は申請しないのでは」などの質問がありました。
県連は患者の命を守るために無低診を実施していると説明しましたが、市議の多くが「一薬局の利益のための請願」と受け取ってしまいました。共産党の賛成しか得られなかったため、請願提出はいったん見送りました。
全国の経験を参考にして
山陽小野田市は炭鉱の町でした。貧困層が多く、かねてより未収金問題が深刻でした。生協小野田診療所の兒玉隆事務長は「早期発見と早期治療で、結果的には医療費が抑制できることを理解してもらえるよう市議に働きかけ、請願を提出したい」と言います。
現在、薬代の助成制度がある自治体は高知、旭川、青森、苫小牧の四市です。「青森民医連にどのようにして助成制度を実現したか経緯を聞き、運動の参考に しました。薬局が無低診の対象外なのは国の制度の欠陥。無低診を実施している全国の事業所が一体となり、国に対して薬代助成の要望が出せれば」と兒玉事務 長。
法人(保健企画)の奥村秀樹社長は「今後は被保険者の自己負担を減免する国民健康保険法四四条の利用もすすめたい。四四条なら薬代も無料で、継続して使える制度です」と話しました。
請願運動の経緯と今後
今回の請願の経緯について、山陽小野田市民生福祉常任委員会委員長の下瀬俊夫議員(共産) は、「“無低診”の言葉自体、初めて聞くという議員ばかりでした。制度そのものに馴染みがなく、困っている患者を助けたいという民医連の思いが伝わらず に、補助金目当てと勘違いされたことが残念です」と振り返ります。
県連は六月議会を前に、市議会各会派を回り請願の紹介議員の依頼をしました。市の財政状況が厳しいため「予算措置を伴う薬代の助成制度を外せば同意する」という議員もいました。
山陽小野田市には炭鉱で働いていたじん肺患者がいます。患者の在宅酸素療法の電気代を補助する請願について、山口民医連、医療生協健文会が開業医ととも に運動して、議会で採択されことがあります。また、同医療生協が対市交渉を行って、肺がん検診を実現させた経験もあります。
生協小野田診療所の兒玉事務長は「薬代の助成でも、市の医師会などさまざまな団体と協力して運動を広げたい」と話しました。
無料低額診療事業…社会福祉法に基づき、県知事が認可。全国で五五八の医療機関が認可を受け、うち民医連は六割の三四〇事業所で実施。山口民医連の事業所では生活保護基準の一三〇%未満を免除、一三〇~一五〇%の世帯を半額とした
(民医連新聞 第1576号 2014年7月21日)