歯科機器の滅菌に関する報道 民医連の対策は? 全日本民医連 江原雅博歯科部長に聞く
「歯削る機器7割使い回し」―。こんな見出しが新聞紙上に躍りました。国立感染症研究所などの調査で、歯を削る際の機器を滅菌せ ずに使っている歯科医療機関が七割近く、というもの。民医連の歯科部では九年前に感染予防ガイドラインを作り、対応しています。全日本民医連の江原雅博・ 歯科部長に聞きました。
記事の影響は大きく、「滅菌は大丈夫か?」との問い合わせが民医連歯科にも相次いでいます。
歯科診療の特質は、「ほぼすべての治療で出血を伴う」「小手術の連続」だということです。ですから、歯科の感染予防でも、医科の手術室と同じような視点が必要です。
感染予防ガイドライン作成
全日本民医連歯科部は、二〇〇五年に「歯科感染予防ガイドライン」を作成しました。背景に は、「感染予防の必要性が十分スタッフに伝わっていない」「管理者や医師のやり方がおかしくても指摘できない」「滅菌・消毒の方法が、事業所で統一されて いない」などの現場の実態がありました。
「ガイドライン」では、院内感染予防の基本事項、歯科診療や往診時に注意したい感染症、リスク別の滅菌・消毒・洗浄の手順、針刺し事故発生時の対応、感染予防に対する第三者評価の仕組みなどを盛り込んでいます。
一般歯科診療での感染ルートとしては、(1)患者から医療従事者、(2)医療従事者から患者、(3)汚染された機械・機具を通して患者から患者への感 染、があります。「ガイドライン」では、感染リスク別に高=滅菌レベル、中=消毒レベル、低=洗浄レベルに分け、具体的な手順を示しています(ガイドライ ンは全日本民医連ホームページの歯科のページで見ることができます)。
滅菌方法は、オートクレーブでの蒸気圧滅菌が主流です。効果は高いですが、機具の消耗が激しく、時間も費用もかかります。
かつては消毒して繰り返し使っていた患者さん用のコップやエプロンなどは、ディスポ(使い捨て)化されています。環境にやさしくないという悩みがあります。
ここでも医科との連携を
「ガイドライン」には、感染対策チェックリストも入っており、現場で活用されています。また、同一法人の歯科・医科で相互チェックを行うなどの対策もすすんでいます。
歯科は、医科に比べると感染予防の認識が弱い部分があります。逆に、入院患者さんの口腔ケアなど、歯科では常識のことが医科では抜け落ちている場合も。 感染対策でも互いに交流し、感染対策の向上をはかることが必要です。
予防対策の費用の問題
歯科は医科に比べて診療報酬は低く、感染対策費用は正しく評価されていません。再診料は四 五点、厚生労働大臣が定める施設基準を持つ外来環境加算も一回四点です。これでバキュームにかかわる費用から感染対策、さらには職員の教育費用までまかな うというのは、無理な話です。
感染対策を安全にやりきれるだけの経営的保障=診療報酬上の保障を、厚労省にはすぐにでも実現してもらいたい。これは、民医連歯科のみならず、歯科業界全体での共通認識です。
安全対策も共同の営み
民医連の事業所で一〇年以上前にこんなことがありました。機具を置くトレーに、前の患者さ んに使ったセメントが少しだけ残っていたのです。もちろん滅菌や消毒はしてあり、問題はなかったのですが、患者さんは私たちには遠慮して言い出せず、帰宅 してから保健所に相談したのです。
保健所から連絡があり、患者さんにも説明して納得してもらえたのですが、何でも言い合える医療者と患者の関係が必要だとも痛感しました。
医療費抑制をすすめたい権力が、医療者と患者を分断させようと意図的に情報を流すことがあります。患者と医療者の共同の営みがなければ、本当の感染対 策、医療安全はないでしょう。ここでも、民医連の力を発揮していきましょう。(丸山聡子記者)
(民医連新聞 第1575号 2014年7月7日)
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