「改正」生活保護法 7月施行でどう変わる? 小久保哲郎弁護士(生活保護問題対策全国会議事務局長)の学習会から たたかう術はある 悪用には監視を
七月から「申請手続の厳格化」「扶養義務の強化」を盛り込んだ「改正」生活保護法が施行されます。生存権を守るために、私たちはどう対応すればいいので しょう。五月に大阪で行われた学習会での小久保哲郎弁護士(生活保護問題対策全国会議事務局長)のお話から考えます。(丸山聡子記者)
生活保護法「改正」案は、一昨年に自公民三党が合意した「税と社会保障一体改革」に盛り込まれ、昨年一二月に成立しました。ただ私たちの運動で、有効な附帯決議がつきました。不当な生活保護の抑制とたたかう術はいくつもあります。
■申請手続どうなる
生活保護の申請手続きの厳格化が図られました。「保護を申請する者は(中略)申請書を保護の実施機関に提出しなければならない」(二四条一項)です。
原案は、生活保護の申請は「申請書の提出」という形式しか認めない内容でした。書類添付も義務づけられ、書類がそろわなければ受理しない、などの対応が懸念されました。
現行では口頭で申請し書類は後から提出も可能です。しかし今でさえ、DV被害者や路上生活者などが通帳や賃借契約書を揃えられず、それを理由に申請を拒 否されることがあります。現行では「違法」ですが、原案はこれを合法化するもので、「申請させずに追い返す“水際作戦”の法制化だ」と批判が広がりまし た。反発を背景に、厚労省からは「運用は従来通り」「口頭でも申請できる」との答弁を引き出しています(表)。
附帯決議は、「『水際作戦』はあってはならない」と明記。省令には保護実施機関の「申請援助義務」が盛り込まれました(生活保護法施行規則一条二項)。
また申請の際の添付書類については、省令は“規定せず”としました。これは大きな武器になります。
■扶養は強化されるか
「扶養義務者に対する通知義務」(二四条八項)と「扶養義務者に対する調査権限の強化」(二八条二項、二九条一項)が入りました。
「改正」法では、扶養義務者に通知し収入・資産の報告を求め、さらに官公署や銀行、勤務先まで調査が可能としました。扶養義務者まで洗いざらい調査して 良い、としたのです。事実上の「扶養の強制」であり、親族間で申請を抑制したり、関係悪化を招く危険があると批判が相次ぎました。
その結果、「通知の対象は極めて限定的」「人間関係が壊れている場合は対象にしない」などの国会答弁を引き出しました(表)。附帯決議は「扶養義務の履 行が要保護認定の前提や要件とならない」「家族関係の悪化をきたしたりすることのないよう、十分配慮する」と明記。省令でも「扶養義務者への通知や調査の 強化は限定的」と確認されています(二条)。
■医療にかかわる問題
ほかに後発医薬品使用の事実上の強制(三四条三項)生活上の責務(六〇条)などの「改正」もあります。
これは、あくまで「後発医薬品で問題なし」との医師・歯科医師の判断が前提で、さらに受給者の同意が必要だと確認されています。強制ではありません。
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「改正」案が閣議決定された五月一七日、国連社会権規約委員会が日本政府に、「生活保護を受けやすくし、生活保護の偏見を解消するよう教育しなさい」という勧告を出しました。まさにその日、勧告内容に逆行する閣議決定をした。国際的にも恥ずべき国です。
国は「改正」によって「運用は従来と変わらない」と説明しますが、にもかかわらず法「改正」を実行した。「改正」を理由にした水際作戦や扶養義務強化が 現場で行われていないか、チェックが必要です。各地で「違法な運用は許さない」と運動を広げましょう。「改正」法は五年後の見直しが義務づけられていま す。事例を積み上げ、「改正は問題だ」とアピールし、撤回させる。そういう運動が必要です。
実は当初の省令案は、申請書の提出を義務づけたり、原則として扶養義務者に調査を行うなど、国会答弁に反する内容でした。
批判の声が広がり、一一六六件のパブコメが厚労省に寄せられました。その結果、省令の内容は改められました。国民が声を上げ続ければ是正できるのです。
厚生労働省の答弁から
▼申請手続の厳格化
「書面等の提出は申請から保護決定までの間に行うというこれまでの取り扱いには今後も変更はない」「口頭申請についてもその運用を変えることはない」(全国係長会議=2013年5月20日)
「隠匿などの意図もなく書類を紛失したり、あるいは必要書類を本人が所持していない場合なども、書類を添付できない特別な事情にあたる」(村木厚子援護局長答弁=13年5月31日、衆院厚労委)
▼扶養義務の強化
「通知の対象となり得るのは(中略)明らかに扶養が可能と思われる極めて限定的な場合に限る」(全国係長会議=同上)
「扶養は保護の要件とされていない」「扶養義務者に対して回答義務や回答がされない場合の罰則を科すことはしない」(村木援護局長答弁=同上)
「人間関係がそもそも壊れている場合に関しましては(中略)、対象にならない」(田村厚労大臣=13年6月20日、参院厚労委)
(民医連新聞 第1574号 2014年6月16日)