どうなっている?大阪市の生活保護 「閉め出し」「抑制」「違法な指導」 弁護士ら実態を調査
「病気で働けない人を無理やりハローワークに行かせた」「介護保険利用料を自己負担させた」―。大阪市の生活保護行政で、驚くべき事態が横行しています。 弁護士や学者ら「大阪市生活保護行政問題全国調査団」の二四〇人が五月二八~二九日、大阪市本庁や各区に入り実態を調査しました。七月から施行される「改 正」生活保護法の“先陣を切る”と宣言する大阪市で何が起きているのでしょうか。(新井健治記者)
大阪市は昨年、全国の政令市で唯一、生活保護世帯数が減少しました。高齢世帯は増えていますが、それを上回り稼働年齢世帯が減少。違法な運用で保護を廃止したり、本来受給できる人たちを申請段階で閉め出す“水際作戦”を強化しているからです。
大阪市の生活保護行政の特徴は(1)稼働年齢層の生活保護からの排除(2)扶養義務の強化(下別項)(3)医療、介護の利用抑制と介護保険利用料の自己 負担強要(下別項)(4)過度の不正受給対策(5)現場で働くケースワーカー(CW)の酷い人員不足と専門性の欠如、の五点にまとめられます。
“不正受給”として保護廃止
大阪市は二〇一二年度、全二四区に警官OBを配置して不正受給調査専任チームをつくりまし た。「産気づいた妹を借りた車で病院に連れて行ったところ、駐車場に警官OBが張り込んでおり、“車を運転した”との理由で保護を廃止された」というケー スも。「保護停止、廃止、申請却下」の件数は、一一年の二二件から一二年は三四四件と大幅に増えています。
生活保護法七八条(不正受給)を適用した保護費の返還件数も急増。調査すると、驚くことに適用最低額はわずか一五〇円。調査団は「受給者自身も忘れてい た銀行の休眠口座を、不正として数えた可能性もある」と分析。
また、行政側の計算ミスが不正受給にカウントされたケースも報告されています。不正受給の数を無理やり増やし、市民に生活保護の誤ったイメージを植え付けようとの狙いが透けて見えます。
病気の人に「努力足りない」
一一年には「保護申請時における就労にかかる助言指導のガイドライン」を通達。各区はガイ ドラインに基づき「一週間にハローワークへ三回以上行き、一社以上の面接を受けること」などと記した「助言指導書」を使い就労指導を強化しています。生活 保護法は保護開始前の「指導」を認めておらず、申請時の指導は違法です。
病気で失職した三八歳男性は昨年一〇月、浪速区に生活保護を申請。所持金が数千円ですぐに保護すべき状態だったにもかかわらず、求職活動せよと指導され ました。ハローワークで六社に応募しましたが、区は「努力が足りない」と申請を却下しました。
「面接に行くための交通費もない、体調が悪く動悸がすると訴えても、CWは取り合わなかった」と男性。弁護士が同行し、申請から四九日後にようやく受給 できました。「餓死するかもしれなかった。僕みたいな人を増やしてはいけない」と言います。
生活保護法「改正」と同時に、稼働年齢層の利用抑制につながる恐れのある「生活困窮者自立支援法」が成立しましたが(来年四月施行)、大阪市のケースはその先取りともいえます。
扶養を事実上強制
大阪市は昨年一一月、扶養義務者の金銭援助の基準額を決めた「生活保護受給者に対する仕送 り額の『めやす』」を策定。扶養の事実上の強制で、全国初の運用です。年収一五〇万円の人にも最大で月一万五〇〇〇円の援助を要求。昨年一二月から市職員 に運用を始め、今年七月から全市民を対象にする予定です。
市との交渉で、福祉局はこの基準を「扶養義務者に聞かれた時の目安」「CWが見当をつけるためのツール」と弁明。「先行して市職員に運用を開始したのは なぜか。職員には人権がないのか」との質問には「橋下徹市長が言っているから」と返答しました。
各区との交渉では、弁護士が違法と指摘したことに対し、生活保護法を理解していない課長も。法を守らず、区は市の通達に、市は市長の指示に従っている実態が浮き彫りになりました。
“大阪市方式”の暴走許すな
大阪市は橋下市長を先頭に、過去に何度も厚生労働省に生活保護法の改悪を求めてきました。 「改正」生活保護法について「本市の提案事項が盛り込まれた」と歓迎。「不正受給の罰則強化、医療費の一部自己負担導入なども検討すべき」と、厚労省にさ らなる改悪をけしかけています。調査で判明した独自の“大阪市方式”の運用で、改悪を待たずに違法が常態化しています。
「大阪市のやり方がまかり通れば、全国へ波及する恐れがある。調査を続け行政の姿勢を変えたい」と調査団の井上英夫団長(金沢大学名誉教授)。交渉では CWの人員不足についてもただしました(下別項)。「職員の権利が保障されなければ、より良い生活保護行政はできない。職員を人権保障の担い手として育て ていこう」と呼びかけました。
35年音信不通でも扶養照会
住之江区と大阪市との交渉で、城世津子さんが扶養照会の問題を訴えました。今年三月、三五年間も音信不通だった父親の扶養照会が突然、自宅に届いたのです。
父親はギャンブル好きで家にお金を入れず、暴力をふるいました。DVで両親が離婚して以来、城さんは一度も会っていません。扶養照会はあろうことか、城 さんの長女と次女、城さんの二人の妹、さらに妹の長男宅と大学生の長女にまで届いたのです。
「父は孫の存在を知らないはず。子どもたちは『なぜ、私のところまで』と怯えていました。父に生活歴を聞かず、機械的に送ったとしか思えない」と驚きま す。妹の長男は結婚したばかり。「お嫁さんが扶養照会を見たらどんな思いをするのか。少しは想像してほしい」。
城さんは民医連職員です。生活保護で患者の相談を受けたこともありますが、扶養照会が来るまで当事者意識はありませんでした。「職場で話題にしたら、 『実は私のところにも』という同僚がいた。生活保護は全ての人にかかわる問題だと分かった」と言います。
扶養の強要は全市で起きています。「誰でも貧困に陥る可能性がある。こんな扶養照会がまかり通ったら、申請を躊躇することになる」と強く批判しました。
利用料の自己負担を強要
生活保護受給者が介護保険を使って住宅改修をしたり福祉用具を購入した場合、利用料の一割負担分は介護扶助で支給する決まりです。ところが、大阪市の各区で一割分を自己負担(自弁)させる違法な事例が相次いでいます。
生野区との交渉では、民医連の浜まき代さん(田島ケアプランセンターふれあい、ケアマネジャー)が発言。昨年九月、七〇代独居女性の浴槽の踏み台を申請 した際、福祉用具業者から「ケースワーカー(CW)から受給者の預金通帳のコピーを持ってくるよう言われ、困っている」との連絡がありました。受給者の貯 金で利用料を負担させようというのです。驚いた浜さんが、CWに法的根拠を問い合わせると撤回しました。
他にも区内の多くの受給者が自弁を求められ、払ってしまったり購入をあきらめた人も。また、専門的見地から必要と判断した福祉用具について、CWから機 能が劣る安価な商品に変更するよう求められたケアマネもいました。
自弁は大阪市の調査だけでも一三三件。交渉で生野区側は「違法との認識はない」「大阪市福祉局の通達に基づいている」と話しました。安価な福祉用具への 変更問題については、「生活保護は必要な最低限度の生活との縛りがある」と“最低限”の言葉を何度も繰り返しました。
弁護士は「生活保護の人は低レベルなサービスでいいとの考え方は生活保護法違反。医療扶助と介護扶助は命にかかわる。差別があってはいけない」と追及。 浜さんは「たとえ一〇〇〇円の自己負担でも、受給者には大きな金額。返還してほしい」と訴えました。
大阪市生活保護行政の問題点と事例
■稼働年齢層の生活保護からの排除
・病気でフルタイムの就労が難しい人に「病気を隠して求職活動をしなさい」と指導
・申請時に独自の「連絡票」や「相談受付票」を使用。申請に必要ない診断書や住宅賃貸契約書の提出を求めたり、相談のみで申請を受け付けない
・相談ブースに監視カメラを設置。相談窓口に「不正受給」など新聞記事を掲示して相談者を威嚇
■医療、介護の利用抑制
・後発医薬品への変更を強制。ケアプランの訪問診療は必要ないと指導。身体に麻痺がある人の手すりの設置を認めない。通院の交通費や診断書の自己負担を求める
■過度の不正受給対策
・親が知らなかった子どものアルバイト収入について、聞き取りをせず機械的に不正受給として保護を廃止
■CWの酷い人員不足と専門性の欠如
・社会福祉法の基準(被保護世帯80件に対しCW1人)で計算すると、市全体で481人が不足(全国最悪)。1人で435世帯を担当するCWもおり、1年以上も家庭訪問をしていない
・調査した8区平均で社会福祉主事の資格を持つCWが51・6%(全国平均は70%)。経験年数も3年未満が61・9%
(民医連新聞 第1574号 2014年6月16日)