介護保険「卒業」迫り“水際作戦”も… 石川 医療・介護総合法案の先取りで悲鳴
介護保険予防給付の利用者(要支援1、2)に介護保険からの「卒業」を迫る、介護認定の申請をさせない…。介護保険から軽度者を 閉め出す医療・介護総合法案の審議がすすむ中、法案の“先取り”とも言える事態が現場から告発されています。石川に向かいました。(丸山聡子記者)
「要支援1の方のケアプランに、市が突然、『半年後には介護保険から卒業を』と指示するの で驚いた」。寺井病院・手取の里介護総合相談センターのケアマネジャー・吉藤明子さんは言います。昨年四月、石川・能美市の「地域ケア会議‥介護予防支援 ケアプラン会議」に出席した時のこと。
ケアプラン会議とは、昨年から同市が独自に始めたもので、「総合支援事業」(モデル事業)の一つ。新規「要支援1、2」のケースは、この会議での検討が 義務づけられました。ケアマネ一人に、市職員が三~四人で対応します。
■伊原さんの場合は
吉藤さんがケアプラン会議にかけたのは、七二歳の伊原路子さん(仮名)のケースです。昨 年、二度目の脳梗塞で入院。入院中に夫が亡くなり、ひとり暮らしです。通所リハビリと訪問介護(生活援助)を利用。一人での入浴は不安なため、ヘルパー訪 問時と通所リハで入浴しています。
体調不良で長期に通所を休んだ時は、ヘルパー以外は誰とも話せず気分が落ち込み、脚力も落ちました。吉藤さんは、「ご本人は病後で足腰が弱り、夫を亡く したばかりで生活に不安も多い。専門的視点で心身をささえる訪問や通所サービスが不可欠」と話します。
そんな伊原さんを、市はケアプラン会議で“自立”へ誘導したのです。使われたのは「生活行為評価票」(下)。 ケアマネは担当する利用者の半年後の改善予想を記入し、提出しなければなりません。これをもとに市担当者は「半年後には健幸ライフ教室(介護予防を目的に 体操などを行う市の事業)に移行を」とすすめました。この会議から半年後にも「通所リハビリではなく、絵手紙教室は?」と市から“指導”が。吉藤さんは介 護保険サービスの必要性を訴え、誘導には応じていません。
「生活行為評価票」(見本) |
■財政のためサービス削る
ほかにも、介護保険サービスの利用の抑制、介護保険からの“卒業”を迫る指導が。
▼男性(82)、独居、骨折、認知症、要支援1↓「訪問介護をやめて、地域のサービスに切り替えられないか」「ゴミ出しは町内会に頼めないか、ボラン ティアのサロンはどうか」。▼男性(95)、要介護1から要支援2に変更↓「通所利用ではなく、介護保険外の老人福祉センターで入浴してはどうか」な ど…。
背景には、能美市がすすめる「財政削減」策があります。同市は介護給付費が全国的にも高く、二〇一二年に「給付適正化」を宣言。モデル事業を始めた一三 年は、要介護・要支援の認定率が前年より〇・七ポイント減りました。
「九五歳の人に介護保険を使わせないなんて」と憤るのはケアマネの清水草連(れん)さん。「要支援の人は自らの衰えを受容できず、無理して骨折することも多い。専門職のケアこそ必要」と指摘します。
認定希望者を窓口で追い返す“水際作戦”とも言える事態も。日中独居の七九歳の女性は認知症が進行し、主治医の助言で認定申請を決意。ところが市の直轄 の地域包括支援センターで「まだ元気そう」とボランティアサロンをすすめられ、申請を見送りました。
女性はサロンで腰を痛め、改めて申請すると「要介護1」。五カ月後、ようやく小規模多機能「寺井の家」に通い始めました。担当した大浦章子さん(ケアマ ネ)は、「申請が遅れた間に認知症も悪化した。申請さえ阻むとは人権問題」と悔しさを滲ませます。
■生存権の丸投げ許さない
総合法案は、要支援者を地域支援事業に移行させるとしています。「寺井の家」のケアマネ・若林桂子さんは、「専門職の目がなく、高齢者の病状の変化を見逃したり、必要なケアが提供されなくなる」と警鐘を鳴らします。
寺井病院は能美市に、要支援者外しを行わないよう要請。事務次長の信耕久美子さん(SW)は、「生存権を守る介護の仕事を、地域に丸投げさせてはならな い。他の自治体で同様の対応があれば、主任ケアマネやリハ職員も同席し、利用者の生活実態から専門職として言うべきことを主張することが大事」と呼びかけ ています。
利用抑制の実態つかみ、告発を
中央社会保障推進協議会事務局次長・前沢淑子さん
能美市のような手法が広がれば、ケアマネは萎縮し、介護サービスは縮小されます。すでに、要支援者は受けないとの方針を出す事業所も出てきています。
ショートステイの長期利用が増大した秋田市では、ケアマネに長期利用者の「調査票」提出を求め、“追い出し”をはかっています。同じような事例がないか点検し、実態を告発していくことが大事。
要支援者を地域支援事業に移行すると言っても、受け皿は整っていません。中央社保協は「自治体アンケート」を集めていますが、東京では「要支援者の地域 支援事業への移行」について「可能」との回答は四自治体(九%)にとどまり、「不可能」は九自治体(二一%)、「判断不可能」が三〇自治体(七〇%)でし た(回収率七〇%)。
総合法廃案をめざしながら、地域の実態に合わせた介護のあり方を提案するとりくみが必要です。
(民医連新聞 第1573号 2014年6月2日)