相談室日誌 連載370 〈侵食される生存権〉 身寄りのない障害者の権利 大栗洋子(東京)
Aさんは六四歳で脳梗塞を発症し、左片麻痺、高次脳機能障害の後遺症があり、車いす生活となった男性です。身寄りはいません。三〇代から建築関係の仕事を続けていましたが、退職と同時に住まいと収入を失い、生活保護を受給することになりました。
身体障害者手帳2級の交付を受けたため、生保の担当ワーカーへ生活保護の障害者加算は手帳取得の翌月から計上されること、また、自治体の制度である「心 身障害者福祉手当」受給の対象となることを確認し、手続きを依頼しました。しかしその後、担当ワーカーに確認すると、障害者加算も手当も何も手続きがされ ておらず、四カ月もの間放置されていたことが分かりました。障害者加算は遡って計上されますが、手当は申請月からの支給です。
担当ワーカーは「手当の支給は口座振り込みしかない。金融機関からは住所地に本人がいない場合には口座開設はできないと言われたので、口座を持っていな いAさんは手当の申請ができない」と説明。ところが、支援相談員が行政の担当部署に問い合わせると、本人が窓口に行けば窓口払いが可能だと分かりました。
Aさん自身に不服を訴える力はなく、本人に代わって交渉してくれる家族もいません。担当ワーカーに「本人を窓口に連れていくので、手当の申請手続きを依 頼したい」と伝えました。そして、生活保護の障害者加算が計上されていなかったこと、心身障害者福祉手当の受給対象であるのに申請が放置されていたことを 指摘し、「Aさんのような事情がある方への福祉事務所職員の対応について、区長へ不服を申し出たい」と連絡すると、すぐ手当受給手続きがすすみました。六 五歳直前のAさん、もう少しで受給の対象から外されるところでした。
受給資格のある方の権利をないがしろにし、放置していた福祉事務所の対応は怠慢です。訴える力のない人が見過ごされてきている現実があると痛感しまし た。こうした経験から、今後、生活保護の誤った運用や問題点がないかなど、福祉事務所の対応をきちんと見極めていく力が必要であると感じています。
(民医連新聞 第1572号 2014年5月19日)