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民医連新聞

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「回想法」を知っていますか? 島根・出雲市民病院 鈴木正典医師

 認知症予防として各地でとりくまれる“回想法”。高齢者の集まりなどで、思い出話を語り合い、共感しながら心の安定を図ります。 長年“回想法”にとりくむ民医連の医師・鈴木正典さん(島根・出雲市民病院)がこのほど、『認知症予防のための回想法 看護・介護に活かすアプローチ』を 出版しました。回想法の魅力について、著者からの寄稿です。

これまで、思い出を語ることは後ろ向きだと考えられてきました。しかし近年、思い出話は 「すればするほど元気になる」と分かってきました。自身の人生を振り返り、ああ~良かったな、ああ~苦労したね、どうだ! たいしたモンだろう!…。聴き 手があれば、「こんなことを話したい」という欲求を誰もが持っています。

単なる“癒やし”から

回想法は一九六〇年代に心理療法として開発されましたが、その中心は心の癒やしでした。イ ギリスでは世代間交流の方法として、高齢者施設や公民館などの単位で昔話や暮らし、文化を語るAge Exchangeとして発展しています。日本では愛 知県の旧師勝町(現北名古屋市)に回想法センターが設立され、活動しています。
回想法はいろいろな切り口で分類されますが、目的別に分類すると、「認知症などの治療」「予防」「高齢者レクリエーション」に分けられます。対象別なら、個人とグループに分類できます。
回想の内容は、地域回想(地域の昔話を語る)、時代回想(主として共有した戦後の復興期の話題など)、民俗学的回想(農村では水稲、養蚕、牛飼いなどを 中心として暮らしを語る)などです。最近は、地域回想法や六車由実さんが提唱した「介護民俗学」も。私は民俗学的回想法をめざしています。

認知症の人への効果

語ることを通じて、言葉を忘れない、コミュニケーション能力が向上する、役割を持つことに 喜びを感じ満足感、自尊心を取り戻す、そのことで脳が活性化し認知症の予防や進行を防ぐ、などの効果があると考えられています。回想法は単なるノスタル ジーではなく、過去から現在、さらには未来に向けた希望を見出す方法です。
介護をする職員や家族にも、高齢者の人生をリアルに理解することで心からの敬愛が生まれ、質の高い個別ケアにつながります。
昔話(昔は~だった)、苦労話(私が嫁に来たときには洗濯機もなくて…)、自慢話(ワシはこんなことができたんだ! と昔取った杵柄を語る)、これを “三大話”と呼んでいます。これらを十二分に話すと気持ちがスッキリします。加えて、「我ながらよくやったものだ」「自分なりにいい人生だったな~」とい う気持ちにもなれます。
人との交流(サロンなど)にも積極参加できるようになります。

聴き上手になる

“聴き上手”は大切です。他の人の話を上手に聴き、“合いの手”を入れる、いい質問をする、話のツボを掴んで話し手を乗り気にするなど、聴き上手になる方が難しいものです。根気も必要です。
女性の方は一般にお元気で“口数も多い”(失礼!)のですが、男性は“余計なことは口にしないことが美徳”という方が多いのです。特に女性に「聴き上手」を心がけていただくと、丸く収まります。

民俗学と回想法

回想の具体的な話題ですが、漁業や農業地帯には「作業」という大きな財産があります。語るべき、伝えるべき課題に事欠かないのが人々の営み=民俗です。それぞれの営みには知識と技があります。「我が家の米が一番うまい」など、誇りがあります。
その季節の作業について、どんな手順だったか、どんな技か、その心(理由)は何かなど、村の古老から伺いましょう。その地域の産業や強みを再発見し、地域おこしにつながることもあります。
島根・雲南市ではサロン事業を活性化させる話題として、水稲、牛飼い、お蚕などをテーマにしました。それぞれの地域のオリジナルテーマも見つけましょう。

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 本書は回想法に加え、各地の高齢者サロンでの担い手さんの苦労を集約し、困り事への答えを示しました。例えば「男性の参加が少ない」「担い手が先細り」…などです。読んでいただければ、回想法で楽しく有意義なサロンを展開できます。

(民医連新聞 第1572号 2014年5月19日)