青年職員が「標的の村」自主上映 “勇気出して一歩” 高知生協病院
高知生協病院の青年職員三人が一月、沖縄の基地問題を描いたドキュメンタリー映画「標的の村」の地域上映会を高知市内で開きまし た。高知民医連と高知医療生協の協力で四〇〇人以上が集まる大成功。また、映画に心を動かされた参加者が、地元でも上映会を開くなど反響を呼んでいます。 「人とかかわるのは苦手だった」と話す青年が勇気を出して一歩を踏み出したことが、病院を動かし、地域を動かしました。(新井健治記者)
上映会は看護師の梶尾望さん(34)が発案、理学療法士の吉永晴香さん(26)と薬剤師の大崎香苗さん(30)に声をかけ、昨年一一月に実行委員会を作りました。
梶尾さんは昨年一〇月、全日本民医連の辺野古支援・連帯行動に参加。高知に戻り法人理事会で報告することになっていましたが、物足りませんでした。「街 中を普通に米軍ヘリが飛んでいた。すごい体験をしたのに『報告しました、はい終わり』ではいかんだろう。一歩、足を踏み出す時かなって。この映画なら沖縄 の現実を知ってもらえると思った」。
吉永さんは、民医連についてよく知らずに入職しました。東日本大震災の翌年、宮城で行われた全国青年ジャンボリーに参加し「自分の足元でも何かしなくてはいけない。でも、何をすればいいのか」と考えるように。そんな時に、梶尾さんから声がかかったのです。
映画配給会社やプレイガイドとの交渉、上映会場の手配、チケットやポスターづくりなどすべて手探り。新聞、テレビ、ラジオへの広報も。地元の高知新聞と高知民報が大きく取り上げました。
広がる上映会
青年の熱意は周囲を動かしました。病院と県連の職員、高知医療生協組合員が、チケット販売に続々と名乗りを挙げたのです。「梶尾君の『沖縄に行く 機会を与えてくれた民医連と職場に感謝する』との言葉が心に残っていた。集団的自衛権が議論されている今だから、映画を広めたかった」と医療生協理事の渡 辺忠直さん。専務理事の今井好一さんは「集会や学習会に参加する若手職員は多いが、自主的に動くのは初めて。これは応援しなければと思った」と言います。
上映当日は二〇〇人の観客動員予想の倍以上の参加が。「鳥肌が立った。やってよかった」と吉永さん。「映画が終わると拍手がわき、びっくりした」と梶尾さん。
また上映会はさらなる広がりを生んでいます。チラシを見て参加した一般の青年が、「自分の地元でも多くの人に沖縄の実態を伝えたい」と、高知市から車で一時間の佐川町で三月二九日に上映会を開きました。土佐清水市、須崎市でも準備がすすんでいます。
映画でみんながつながる
梶尾さんはもともと映画好き。二〇代前半はやりたい仕事が見つからず、映画ばかり観ていました。たまたま取ったヘルパー二級の資格で療養型病院 へ。「人とかかわるのは苦手だったけれど、やってみるとおもしろいかな」と看護学校に進学、民医連の奨学生になり、三年前に高知生協病院へ。
梶尾さんが所属する病棟の吉本きらか師長は「おっとりした性格でしたが、辺野古から帰って変わった。自ら署名を呼びかけるなど積極的になった」と語ります。
「同世代ががんばっている」と、自主的に三人を応援する青年職員も。広報を手伝った事務の黒川桂子さん(26)は「映画を観て悔しくて泣いた。事実を 知ったからには行動をしないと」と振り返ります。「上映会を通して、日米安保条約を学ばなければいけない気持ちになった」と理学療法士の山田政志さん (36)。介護福祉士の広瀬眞世さん(37)は「一つの映画で病院のみんながつながった。この経験は自分の誇り」。
「この病院、変わっちゅう」
上映活動を振り返り、梶尾さんは「普通の病院なら、仕事だけで終わり。さまざまな活動ができて、しかも職場が後押ししてくれる。民医連って変わってるな。でも、そういうところがすごくいい」。
「確かに変わっちゅう(変わってる)よね」と吉永さん。「職員と患者さんの関係は『退院です、お大事に』というのが一般的。でもこの病院には組合員の班会があり、患者になる前も退院後も関わる。理学療法士でも患者の生活全般を考えます」と言います。
高知県は県民所得が全国で二番目に低く、貧困問題が深刻です。「大学の同級生で他の病院に行った友人は、無料低額診療の言葉さえ知らなかった。ここで働けて良かった」と吉永さん。
梶尾さんは「尊敬する先輩は『患者さんの全てを見なさい』と言います。退院した患者さんがひとりで暮らせるのか、そんな視点も少しずつ分かってきました。職場では怒られてばかり。でも、やっぱり人とかかわる仕事が好き」。
映画「標的の村」
琉球朝日放送制作。ヘリ着陸帯建設に反対する東村高江の住民運動や、オスプレイ強行配備に抗議して普天間基地を封鎖した県民を描いた。YouTubeで予告編
(民医連新聞 第1570号 2014年4月21日)