相談室日誌 連載368 生保の申請をためらうのはなぜか― 清藤佑香(岩手)
五〇代のAさん(男性)は二年ほど前に糖尿病による壊死のため左下腿切断後、リハビリ目的で当院に入院されました。生活管理が苦手で、足を切断しなければならないほどに糖尿病が悪化するまで受診することができませんでした。
母親と二人暮らしで、生活は母親の年金に頼っていました。金銭管理は家を出ているAさんの姉が行っています。入院費の支払いは分割の計画を立てました が、退院後Aさんから「支払いを延期してほしい」との相談が。姉の金銭管理のもと切り詰めた生活をされていましたが、母親の年金額は二人家族の生活保護基 準ぎりぎり、日用品を買うこともままならない状況だったのです。
Aさん自身は母親の年金で生活することに引け目を感じており、生活保護を受給することを望んでいました。しかし、それには姉が反対しており、現在も申請 には至っていません。これまでAさんと母親は互いにささえ合って何とか生活してきましたが、生活保護を受けるには、世帯分離して住居も変えねばなりませ ん。姉が生活保護の申請に踏み切れないのは、生活保護を受けることによってその後に生じる不便を考えたためでした。今後はケアマネや地域包括と連携を図り ながら、本人、家族と話し合いを続けていく予定です。
生活保護の受給が必要な方であっても、本人や家族がその申請を拒否するケースがあります。生活保護を受けることによって、デメリットが生じることがある からです。また、生活保護を受給することに対してスティグマ(烙印、汚名、ネガティブな意味でのレッテル)を感じることから申請を拒否する方もいます。
最近は生活保護の不正受給が実際以上に大きく取り上げられ、生活保護の受給の基準や調査が厳しくなっています。しかし、本当の問題は、Aさんのように 「生活保護を受ける必要があるのに受給できていない人がいる」ことです。生活保護制度の改善を求めていくことが必要です。生活保護の基準等の見直しも、実 際に生活に困窮している方の現状をきちんとつかんだ上で行う必要があると考えています。
(民医連新聞 第1570号 2014年4月21日)
- 記事関連ワード