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民医連新聞

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“報道の見方“とは(上) 武蔵大学教授 永田浩三さんに聞く 知識を蓄え、多面的な視野を

 民医連は「マスメディアの報道を鵜呑みにせず、見極めよう」と運動方針でも呼びかけました。テレビ、新聞、インターネットから大 量に流れる情報とどう付き合えばいいのか。“報道の見方”について、元NHKプロデューサーで武蔵大学教授(メディア社会学科)の永田浩三さんに聞きまし た。

 江戸時代のかわら版に始まり、明治にかけて新聞が誕生したのが、日本の報道の歴史です。政治活動の宣伝が主流でしたが、やがて国に批判的なジャーナリストが生まれました。
 しかしその後、治安維持法ができ、批判すれば捕らえられ、日本は太平洋戦争に突きすすみました。戦争中は国の発表を鵜呑みにした報道しか許されず、ラジオ局のNHKは大本営発表をふりまきました。

戦争の反省から出発

 戦後、新聞各社は、正しいことを伝えず戦争をあおったことを反省し、一斉に謝罪しました。 NHKは公共放送となり、放送法に基づいて運営される特殊法人となりました。一九五〇年にできた放送法は「放送が健全な民主主義の発達に資するようにする こと」(一条)と明記しました。悲劇を繰り返さないためです。
 戦後に誕生した日本国憲法は権力を縛る道具であると同時に、日本社会のあるべき姿を示したものです。放送法は憲法の理念を放送で具体化し、放送で普及し ていくという考え方です。政府も政治家も間違えることがあります。メディアは国の行いを注意深くチェックし、時には国に抗うのが、本来のあり方です。

“知る権利”の代行者

 では、実際の報道はどうでしょう。憲法が危うくなっている今、メディアは「憲法をないがし ろにしていいのか」と身体を張って伝えなければなりません。たとえ選挙で勝利した政権であっても、憲法をないがしろにしていいわけではありません。政権が 暴走したとき、メディアが何も言わないのはおかしいのです。
 昨年末に強行された特定秘密保護法は、国の安全保障や治安のために国民の「知る権利」を著しく制限します。しかし「国民の知る権利の代行者」であるメ ディアは国民生活に直結する同法の危険性や疑問を十分に伝えませんでした。
 原発事故をめぐる報道でも、メディアは住民が無用な被ばくをしないよう警鐘を鳴らし続けないといけなかった。しかし政府と東京電力の記者会見を垂れ流し、脱原発を求める行動もきちんと伝えていません。
 実際には原発事故は収束していないのに「収束宣言」を出したり、「汚染水はコントロールされている」と言う政治家は、本当に無責任です。けれど、そうい う政府や安倍首相をかばい、応援する大手メディアが日本には複数存在します。これは国内外ともに見てゆゆしきことです。

「わかりにくい」もの

 また最近のニュースは、起きていることの一部分だけを切り取り、表面的に報道する傾向があります。
 例えば日本軍慰安婦への謝罪を求め、韓国・ソウルの日本大使館前で毎週行われる水曜デモ。そこには少女の像があり、子どもたちも参加し、歌を歌ったりし ています。元慰安婦の女性たちは“おばあちゃんアイドル”のような存在です。 取材した記者なら、そこが豊かな空間だと分かります。しかし報道される時に は、拳を上げ、声を荒らげ、「絶対に許さない」という雰囲気の硬直的なニュースに仕上がっている。
 問題を「争点化」し、是か非かだけで判断する傾向が強まっています。これは報道の劣化です。私たちが生きる世の中で起きている事柄は、本当は「わかりにくい」ものなのです。
 報道を受け取る私たちはテレビや新聞さえ見ていれば世の中が分かると思ってはいけません。「ニュースだから間違えないだろう」と鵜呑みにするのも間違い です。ニュースが伝えていないことは何か、伝えられないことの中に大切なことがあるかもしれない、と考えることが大事です。

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 情報を得ようと主体的に動けば、情報はたくさんあります。継続して新聞の記事を切り抜き、特集や連載を読み込むと見えてくることがあります。情報や知識を蓄えてください。
 世の中を多面的に見ること。医療・福祉の分野で働く皆さんは、患者さん、利用者さんの命や健康、暮らしを脅かすものは何か、敏感になることが大事です。


ながた・こうぞう 1977年NHK入局。ドキュメンタリー「おじいちゃんハーモニカを吹いて…」で芸術祭賞・放送文化基金賞。91年から「クローズアップ現代」など担当。番組改編事件の「ETV2001」ではシリーズ「戦争をどう裁くか」の編集長。09年から現職。

(民医連新聞 第1569号 2014年4月7日)