学ぼう!総会方針 (1)健康格差 貧困が奪ったいのち56人 6割が「働き盛り」 全日本民医連 手遅れ死亡事例調査
全日本民医連は貧困などに苦しむ人たちを助けるとともに、経済格差がいのちの格差につながっていると事例を挙げて発信してきまし た。二〇〇六年に始めた「国保など経済的事由による手遅れ死亡事例調査」もその一つ。このほど二〇一三年の調査結果をまとめました。貧困が拡大し、「お金 がない」「国保料の滞納で保険証を取り上げられた」など経済的な理由で受診が遅れ、死亡に至った事例は五六件。六五歳未満が約六割を占めたのも特徴です。 (新井健治記者)
民医連綱領は「無差別・平等の医療と福祉の実現をめざす組織」と掲げています。調査は、「受診したくてもできない」患者の実態を明らかにし、こうした犠牲者をなくしていくことが目的です。
全日本民医連の岸本啓介事務局長は「人権、憲法の視点から患者を捉え、保険が無くてもお金が無くても、躊躇なくいのちを救うのが民医連。調査を通してその姿勢を実感してほしい」と言います。
五六人のうち、無保険や資格証明書、短期保険証など正規の保険証を持っていない人が六割いました。今回は二三県連の報告で、五六人は氷山の一角にすぎません。国民皆保険制度が機能せず、多くの国民がいのちの危機にさらされています。
手遅れになる背景には貧困の拡大が。また、六五歳未満の「働き盛り」の死亡は三二人と約六割を占めました。無職や非正規雇用がほとんどで、正規雇用は一人だけ。雇用が破壊され、社会保険に加入できなかったり健診を受けられない人もいました。
調査では亡くなった本人や遺族から深刻な事例も聞き取っています。無職の子どもが親の年金を頼りに同居したり、同居する三世帯六人の月収が二〇万円の給与に加え児童扶養手当だけ、というケースもありました。
「飯場で生活しているから」との理由で、行政が生活保護申請を窓口で受け付けず、治療が一年遅れて亡くなった事例もありました。この違法な“水際作戦”は、昨年一二月に成立した生活保護法の改悪で強まる可能性があり、今後注視していくことが必要です。
調査から無料低額診療事業(無低診)の重要性も明らかになりました。無低診を利用したのは二二人。保健師が健診でつかんだ困難ケースから無低診を実施し ている民医連の事業所につないだり、患者の母親が図書館で無低診を知って事業所に相談するケースもあり、無低診の認知が広がっています。より早くつなげれ ば救えるいのちもあり、今後は民医連外の医療機関にも無低診を広げることが重要です。
四月から消費税が八%に上がりました。年金削減など社会保障改悪を合わせれば一〇兆円の負担増です。岸本事務局長は「大増税で社会の総貧困化がすすみ、 ますます受診しにくい状況が広がる。個人の努力だけでは解決できない。救えた可能性のあるいのちを二度と犠牲にしないよう、政府に強く求めていきたい」と 言います。
駅前で“なんでも相談会”
困っている人、見逃さない 東京・健友会
中野共立病院と附属診療所、法人本部の職員有志が、二〇一〇年一〇月から毎月一回、「なんでも街頭相談会」を続けています。事業所から外に出て無料で相談を受けることで、本当に困っている人を見逃さないとりくみです。
三月二六日は三九回目の相談会。午後五時半、乗降客でごった返すJR中野駅前に「無料相談」と書いたのぼりとテントが立ちます。中野共立診療所事務長の 松本明彦さんが「お金がないから病院にかかれない、保険証を取り上げられた…。何でもご相談下さい」とマイクで呼びかけます。「職員が地域の実情を知らな かった。待っているだけではだめだ、外に出ようと始めました」と松本さん。
買い物袋を下げた主婦や仕事帰りの会社員らが次々訪れます。事前に三八〇〇枚のチラシを病院と診療所の周辺に配布、チラシを握りしめて来る人もいます。
咳が止まらないという若い女性と痛風の四〇代女性は外来に誘導しました。「生活保護費の削減で生活が苦しくなった」と訴える六〇代女性の血圧を測ると、一六〇もありました。「お酒が止められない」と悩む路上生活者には、入院をすすめました。
若い労働者の相談も目立ちました。「正社員だが社会保険がなく、国民健康保険に入っている」(四三歳男性)、四五歳男性は「パワハラでうつ病になった」と悩みを打ち明けます。損害賠償や相続の相談もあり、弁護士が対応しました。
相談会は毎月第四水曜と定例のため、継続して来る人も。失業して困っていた男性から「ようやく仕事が決まりました。お世話になりました」と嬉しい報告が。
この日は医師、看護師、事務ら職員一三人と、医学生、弁護士、区議(共産党)が、一時間半で一九件の相談を受けました。二年前から参加している山添志野 さん(中野共立病院事務・二六歳)は「外に出てこちらから働きかけるのが民医連の持ち味。これからも活動を続けたい」と話しました。
2013年手遅れ死亡事例調査概要
56事例(男性43人、女性13人)
30代1人、40代4人、50代13人、60~64歳14人
65~69歳11人、70代8人、80代5人
【医療保険】
正規保険証あるいは生活保護24人
無保険など32人(無保険23人、国保短期保険証5人、国保資格証明書3人、後期高齢者短期保険証1人)
【死因病名】
がん36人、不明・その他9人、脳血管疾患4人
肺・呼吸器疾患3人、肝疾患2人、心疾患2人
【仕事と収入】
無職21人、非正規雇用14人、年金9人、自営7人、その他4人
正規雇用1人
【受診後の医療費負担】
家族等が支払い16人、生活保護14人、保険証発行12人
無料低額診療11人、国保44条の減免利用1人、その他2人
※最初に無低診を利用した22人のうち、11人は生活保護受給や保険証発行へ
出勤前に路上生活者パトロール
定期巡回で信頼関係 北海道・札幌西区病院
勤医協札幌西区病院は二〇〇九年から毎月一回、出勤前の早朝に路上生活者の安否を確認する「SOSパトロール」を実施。定期的に巡回して信頼関係を築き、受診や生活保護につないでいます。
一月三〇日にちょうど五〇回目になりました。氷点下三度の午前七時、職員と「札幌西・手稲健康友の会」会員一三人が病院近くの二四時間営業のスーパーに集合。四組に分かれ駅や公園、コンビニなど二時間かけて巡回しました。
ベンチにいた二人におにぎりを渡したところ、顔なじみの男性は「久しぶり」と笑顔で返答。もう一人の男性がめまいを訴えたため、受診をすすめましたが 「病院は行かない」と拒みました。男性の血圧を測り健康状態をチェック、無料低額診療のパンフレットとテレホンカードを渡し、いつでも連絡するよう声をか けました。
始めたきっかけは、看護師が公園のトイレにいた無職の青年を救急対応したこと。事例を検討する中で、「病院の周囲には困難な状況が広がっている。待って いては分からない」と地域に出ることになりました。パトロールとは別に、弁護士や不動産関係の専門家と何でも相談会も開いています。
地道な活動は地域にも知られています。「短パンで靴を履いていない人が来店した」とコンビニ店長から情報が寄せられました。ネットカフェの店員も関心を寄せ、相談会のビラを受け取りました。
参加した杉田香織さん(作業療法士)は、「ホームレスの方と職員が友だちのように冗談を言いあう姿を見て、活動を続けることの意義を感じた」と話しました。新入職員や研修医、実習生も参加、民医連教育の場にもなっています。
また、夜回り活動を一五年続ける「北海道の労働と福祉を考える会」代表の山内太郎さん(札幌国際大学講師)は「体調を心配するなど、医療関係者ならでは のていねいなパトロール。病院にかかると生活保護の利用に前向きになる人が多いので、受診につなげる意義は大きい」と評価しました。(渋谷真樹、北海道民医連事務局)
(民医連新聞 第1569号 2014年4月7日)