国保税引き下げた―でも 被災者の生活は今 被災地発 宮城県・塩釜市
宮城県・塩釜市で来年度の国保税引き下げが決まりました。坂総合病院も参加する「塩釜市の国保を良くする会」が求めてきた成果です。震災後二度目の引き下げになりました。しかし被災地では国保以外にも課題があります。塩釜を取材しました。(矢作史考記者)
少ない年金から医療費を捻出
「昔は病気なんてしたことがながったのに。震災後、血圧の薬を飲まなきゃいけなくなった」。塩釜市体育館駐車場に建つ仮設住宅に住む内海節子さん(70)は、避難所や仮設住宅の暮らしのストレスで高血圧になりました。
昨年四月から宮城県が被災者の医療費免除を打ち切ったため、月に六~七万円の年金から医療費を支払っています。一回の薬代だけで五〇〇〇円以上。四月か ら七〇~七四歳の医療費の自己負担が二割になると聞いて驚きました。
夫と二人、年金で暮らしている内海さん。「被災後しばらくは支援物資などもあり、食べることは困んながったけど、今は自力でやるしかなく、暮らしに余裕はない」と話します。
全国の中でも重い国保税
そんな被災者に重くのしかかる負担の一つが国保税です。特に塩釜市は全国の自治体の中でも高額で、家族四人で課税所得二〇〇万円のモデル世帯に年間四七万円を超える国保税を課していました。
二〇一〇年から坂総合病院も参加して「塩釜市の国保を良くする会」を結成。同院で引き下げを市に求める署名活動を行うと「こんな署名をやってくれるとこ ろがあるなんて」と予想以上に大きな反応があったと、同院の事務局次長で会事務局長も務める神倉功さんは振り返ります。
有権者数二割を超す九四七二筆の署名を集め、市議会に請願するも反対多数で否決されました。しかし市長との懇談の際に多くの民意があることを訴え、二〇 一一年一二月に引き下げを実現。さらに要望を続け、二〇一三年一二月に今回の引き下げが決まりました。
ここまで国保税が高くなった理由は、滞納者が増え国庫負担の減額がされたこと。そのため減額された分を値上げで補填し、さらに滞納者が増加するという悪 循環に陥りました。神倉さんは「地方では国庫負担交付金がなければ国保財政は機能しないんです」と指摘します。
震災後に生活保護が減る
さらに、生活保護の改悪やバッシングにより生存権の問題も深刻になっていました。
最近、神倉さんは仮設住宅の復興支援室から「一週間食べていない人がいる」との連絡を受けました。すぐにフードバンクからの支援品を携えSWと訪問。生 活保護をすすめても、「生活保護は最後の手段」と拒むところを説得し、申請につなげました。「既にぎりぎりの生活なのに。ネガティブキャンペーンの影響で しょう」。
塩釜市の国保を良くする会会長の虎川太郎さんは、宮城県生活と健康を守る会会長でもあります。
国が生活保護費を四五〇億円削る政策を打ち出して以降、「就労指導の強化」という名目で保護が打ち切られる世帯が増加していると虎川さんは指摘します。県 沿岸部の福祉事務所の統計では、震災前と比べて震災後に生活保護受給者の数が減っていることが分かっています(表)。
自宅で障害児をみている母親や、がんや糖尿病、リウマチを患っている人にも就労指導が行われており、虎川さんの元に相談が入ってきます。「死ぬ間際まで 働けというのでしょうか?」と虎川さんは怒ります。「高額な国保税や生活保護を受給させない仕組みを見ていると、国の福祉制度が人を殺してしまうものに なっているのではないかと思う」。
「弱い者いじめやめて」
内海さんと同じ仮設に入居する鈴木栄子さんは仮設住宅での人間関係のトラブルで、家に閉じこもっていた時期がありました。坂総合病院からの訪問などを通じて、体調が回復しました。
最近も「国の税金で住んでいるくせに」と仮設住宅まで来て冷やかす人がいることに心を痛めています。「私たちは家を失っているのに」と鈴木さん。
鈴木さんも内海さんも「生活は火の車」と口を揃えます。仮設住宅から災害復興住宅に移れば家賃がかかる、と思うと不安になってしまいます。
今後、消費税や医療費自己負担増が押しつけられようとする中、鈴木さんは訴えます。「テレビでは被災地を報じなくなりましたが生活の厳しさは変わりませ ん。私たちは贅沢がしたいのではない。今後を考えると不安だらけだから。国も弱い者いじめをしないでほしい」。
(民医連新聞 第1567号 2014年3月3日)