復興へ原発労働者支援を 福島県いわき市 渡辺市議に聞く
福島第一原発で事故収束を担う労働者の環境は過酷です。命がけにもかかわらず、低賃金で健康被害の補償もない人権無視の現場がほ とんど。原発関連企業が多い福島県いわき市で、一〇〇人近い労働者の相談を受けてきた渡辺博之市議(共産党)は「まるで現代の『蟹工船』。原発労働者の待 遇を改善しなければ、事故収束も復興もあり得ない」と指摘します。(新井健治記者)
派遣、ピンハネ、箝口令
現場では一日三〇〇〇人が働いているといわれています。被曝線量が高くなれば容赦なく解雇 され、次の職場は斡旋されません。線量をごまかすため、線量計を鉛箱で覆ったり警告音を無視して作業をさせた企業もありました。原発は労働者の健康を犠牲 にした差別の上に成り立っています。
末端の日雇い労働者は東京電力の四次、五次請けから派遣されており、「自分は誰に雇われているのか分からない」と言う人も(図)。違法な偽装請負、多重派遣で社会保険の加入も充分でなく、無保険の人もいました。派遣会社は東電が出す日当を何重にもピンハネし、労働者に支払われるのは六〇〇〇~一万五〇〇〇円です。
こうした実態はほとんど報道されません。現場では箝口令(かんこうれい)が敷かれ、取材に応じないよう誓約書や、「健康被害が起きても会社を訴えません」との念書を書かされた人もいます。
「産まれる子どもに影響があるかもしれない。だから俺なんかと結婚してくれる女性はいない」と話した若者もいました。健康不安は大きく、私の携帯電話には頻繁にメールや電話で相談が入ります。
国は労働者の被曝線量に応じて、がんや白内障の検診をしますが、「事故収束宣言」(二〇一一年一二月)までの積算線量で線引きしました。それ以降も高線 量下での作業が続いていますが、無視しています。また、退職者の検診制度は全くありません。
一月に全日本民医連とともに臨んだ省庁交渉では、労働者全員に「健康管理手帳」を交付し、国が生涯にわたって健康管理に責任を持つことを厚生労働省に要請しました。
原発労働者と連帯を
過酷な環境のため、労働者のモチベーションが落ちています。このままではヒューマンエラーが続出し、新たな事故が起きる危険もあります。事故収束には、労働条件を改善させるとともに原発労働者を励ますことが必要です。
私は市民と「原発労働者を励ます会」をつくり、事故収束作業の前線拠点「Jヴィレッジ」で梨やミカンを配りました。民医連でも、病院名で差し入れをして はどうでしょうか。「俺たちの健康を心配してくれる病院職員がいる」と分かるだけで、どんなに励まされるでしょう。
労働者の中には原発がなくなれば仕事を奪われると思い、脱原発運動を快く思わない人もいます。労働者の生活や健康を保障する運動を同時に行い、ともに原発ゼロを求めていく視点が大切です。
渡辺市議や原発労働者が出演するDVD「絶望から希望へ」が発売中(五〇〇円)。問い合わせは、原発をなくすいわき市民の会〇二四六(二七)五九一一
“使い捨て”ではやれません ――――――原発労働者の話
原発事故当時、福島第二原発の原子炉建屋で働いていた労働者は次のように語ります。
建屋の壁には大きな空気孔が空いています。原子炉を冷却する発電機の配電盤やエンジンを外 気で冷やすためです。震災前、「津波が来たらアウトだな」と同僚と話していましたが、悪い予感が当たった。開口部から入った海水で、発電機3基のうち2基 が停止。第二原発も事故寸前だったのです。
事故後も東電の対応はずさん。昨年8月に起きた汚染水漏れはそのひとつです。原発のメンテナンスを長年してきた私から見て、汚染水を入れたタンクの継ぎ 目をゴムで補強したのは信じられない。本来なら溶接すべきで、工期短縮のための“やっつけ仕事”です。
今の職場では、労働者は集まらない。除染の方が日当が高いうえ、東京五輪も決まり労働者は安全な職場に流れる。事故収束でさえコストを優先する東電は破綻処理し、国が責任を持つべきです。
被曝線量が限度にきたら使い捨てでは、やっていられない。全国の原発関係の仕事をローテーションで回し、線量が高くなったら別の仕事を斡旋するなど身分 を保障するシステムを作ってほしい。安心して働ける職場にしなければ、技術者は集まりません。
(民医連新聞 第1567号 2014年3月3日)
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