相談室日誌 連載365 無低診もっと知らせよう 全人的支援を通じて 坂口真子(福岡)
昨年九月、市役所の児童家庭課から一本の電話が入りました。
「子育てや近隣住民のトラブルなどで相談に乗っているAさんの体重が三四kgしかない。栄養失調が疑われ受診をすすめているが、経済的な理由で拒否して いる。無料低額診療事業(以下、無低診)の適用も含めて相談に乗ってもらえないか」とのことでした。
さっそくAさんを診療。その結果、翌々日、入院になりました。夫婦関係や近所の付き合いがうまくいかず、多量の飲酒を繰り返していました。アルコールによる食欲不振や肝硬変も発症していました。
治療費は入院のみ無低診の適用となりました。治療で状態は徐々に改善し、食事量も回復。子どもたちのことも気になり、約二週間で退院しましたが、心療内科にもつなぎ、引き続き支援することになりました。
しかしAさんはその後、一カ月ほどで外来受診をキャンセルするように。自宅を訪問すると、夫婦関係が悪化し、夫から生活費もきちんと入らず、医療費もな いと分かりました。また飲酒も再開していて、精神的にも経済的にも受診できない状況になっていました。本人は転居や離婚を望んでいましたが、具体的にどう すればいいか分かっていませんでした。
支援は本人の意思を尊重し、生活背景まで捉えることを大事にしました。公営住宅を申し込み、当選したので夫とは別居。転居手続きや生活保護の申請も行い ました。医療費の心配もなくなった現在は治療を継続しています。
この事例では無低診で受診につなげることができました。患者の経済的不安を取り除くことはもちろん、経済相談で終わらせない支援の必要性を痛感しました。
患者さんの疾患やその原因になっているものに目を向け、治療が継続できる環境をつくる支援は必要不可欠です。また、今回のように無低診という入り口が あったからこそ、支援介入できている事例も他には多くあります。この事業をより多くの人に知ってもらう活動にも、今後力を入れていかなければならないと感 じました。
(民医連新聞 第1566号 2014年2月17日)