シリーズ 働く人の健康 ~労働法制改悪~ “派遣から抜け出せない” ――労働ジャーナリストに聞く
「無期限派遣」「企業優先 使い捨て懸念」―。厚労省・労働政策審議会(労政審)が労働者派遣法の大幅改正をめざす報告書をまと めた一月二九日、新聞各紙にはこんな言葉が躍りました。シリーズ最終回は、安倍政権が狙う「雇用の規制改革」について。労働者を不安定な雇用に流し込み、 働く者の心身をむしばむものです。
安倍内閣は発足直後から「雇用の規制緩和」を掲げ、経済財政諮問会議、日本経済再生本部、 産業競争力会議、規制改革会議を立ち上げました。「“人を動かす”が、安倍政権がすすめる雇用政策のキーワード」と指摘するのは、長年労働分野を取材して きた毎日新聞の東海林智(とうかいりんさとし)さんです。
労政審報告書には、この方向性が如実に盛り込まれています。
“改悪”としか言えない
報告書は、派遣の受け入れ期間の上限(現行では三年)を、事実上撤廃するとしました。派遣 先企業が三年を超えて派遣社員を使う場合、「職場の過半数を占める労働者代表に意見を聴いたうえで人を入れ替えれば可能」。“同意”は必要なく、意見聴取 にとどまります。歯止めにはなりません。
派遣元企業と無期契約をした労働者は無制限に派遣を続けられます。しかしこの場合も、派遣先企業から派遣契約の打ち切りを告げられれば、簡単に解雇されます。
いずれも、「いつもある業務には派遣労働者を使わない。派遣労働者を使うのは『臨時的・一時的』な業務のみ」という「常用代替防止」の原則(労働者派遣法)を投げ出す規制緩和です。
かつては労働者供給事業(人貸し業)は禁じられ、「直接雇用」が基本でした。使用者の責任が曖昧になり、雇用が不安定になるからです。そのため、一九八 五年にスタートした労働者派遣法も「常用代替防止」が原則でした。
「報告書の通りになれば、派遣は『臨時的・一時的』ではなく、恒常的な雇用になる。労働者を不安定な派遣労働に流し込んでいく、労働法制の大改悪だ」と東海林さんは批判します。
全労連や連合など労働組合はこぞって反対を表明。日本弁護士連合会も反対声明を出しています。
人を人と見ない労働法改悪
「雇用の規制緩和」はこれにとどまりません。反発を受け、撤回したものもありますが、どんなに働いても残業代は支払われない裁量労働制の拡大、事務系労 働者などの労働時間規制の適用除外(ホワイトカラー・エグゼンプション)の導入、解雇の事前的金銭解決などが狙われています。
派遣法の見直しをまとめた労政審には、直接の利害当事者である派遣業界の人間がオブザーバーとなり、議論の半分近くを彼らの発言が占めました。これは、国際的なルールにも反します。
「彼らは、労働者を“過剰在庫”、賃金を“価格調整”と言う。労働者を人と見ていない。若年者の三九%を占める非正規労働者がどんな働き方を強いられているか、想像すらできないだろう」。東海林さんは怒ります。
「人間らしく働ける」改正を
派遣労働が拡大された〇四年以降、派遣社員は急増しました。しかし〇八年のリーマンショック後、職も住居も失った人たちがあふれ、「派遣村」が生まれました。
「多くの人は、正規で働きたかったのに派遣の仕事しかなかった。初めて就いた仕事で必死に働いたのに会社の都合であっさり切られた」と東海林さん。契約 打ち切りを恐れ、サービス残業にも堪えて働いていたと言います。
心身を病んで休職や退職に追い込まれても、低賃金のため傷病手当や雇用保険では食べていけず、十分な治療が受けられないまま、次の仕事を探す若者も多 い、と東海林さん。「すでに日本は世界に類を見ない長時間労働なのに、政府は労働時間規制すら緩和しようとしている。長時間労働は労働者の身体と精神を確 実にむしばむ。労働時間を規制し、人間らしく働ける法改正こそ急務です」。
(民医連新聞 第1566号 2014年2月17日)
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