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民医連新聞

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―生活保護基準引き下げ― 影響、きかせてください 長野県民医連で実態調査

すべての生保患者まわる 諏訪共立病院

 生活保護基準の引き下げが、昨年八月から段階的に始まりました。四月には 二度目の引き下げと消費税八%への増税が控えています。長野県民医連では、生活保護を利用している患者の生活実態調査に乗り出しました。削減が受給世帯に 及ぼす影響を明らかにし、憲法が保障する生存権が脅かされている実態を発信、国に削減撤回を求めようとの狙いです。諏訪共立病院の調査に同行しました。 (新井健治記者)

 「昨日の昼食は一袋二八円のうどん、夕食は八八円のレトルトカレー。糖尿病の身にはよくないと分かっていても、野菜が高くて自炊できない」と話すのは五八歳のAさん。製造業の管理職でしたがリストラにあい、昨年九月から生活保護を利用しています。
 諏訪共立病院は一月九日から調査を開始。SW(ソーシャルワーカー)と他職種の二人一組で、同院にかかっている生活保護世帯全てを回ります。
 Aさんは自己注射が必要な糖尿病患者です。失業でお金に困り、インシュリンを間引きしていたため病状が悪化、昨年七月に同院に入院しました。生活保護を 利用する今は医療費の心配なく受診できます。「共立さんに助けられた。生保がなければ自殺していたかも」と言います。

人づきあい断って

 一カ月の食費は二万円以下。床屋は行かず、風呂は沸かさず、週に二回シャワーを浴びるだ け。六畳二間のアパートでひとり暮らしです。「時折、無性に人恋しくなる」と言いますが、人付き合いは断っています。「身の上話になれば、生活保護と知ら れる。嫌な思いをしたくないので、“世捨て人”にならざるを得ない」。
 一年前までは自宅があって家族もいて、ごく普通の生活をしていたAさん。病気と失業で一変しました。「誰でも生活保護を利用する可能性がある。権利とは 分かっていても、『税金で楽をしている』と言う人もいて、辛い。病気と年齢で職もなく、自立したくてもできない。生きていて良かったとは思えないんで す」。聞き取りをしたSWの清水雄大さんは「切り詰めた生活を強いられたうえ、バッシングで肩身の狭い思いをさせられるなんて」と怒ります。

「食費を削るしかない」

 政府は生活保護のうち、生活扶助費を昨年八月、今年四月、来年四月の三段階にわたり総額六七〇億円を削減するとしています。削減率は平均六・五%で、子どものいる複数世帯ほど下げ幅は大きく、最大で月二万円もの減額に。
 長野県民医連は昨年一一月の理事会で実態調査を提起。報道されない暮らしぶりを社会に伝え、国に削減撤回を求める運動を広げます。三月に集計結果を分析、四月には記者会見等で報告します。
 SWの鮎澤(あいざわ)ゆかりさんと病棟師長の洞澤(ほらさわ)泉美さんが訪問したのはBさん(七七歳・女性)宅。造園業の長男が一昨年五月に脳梗塞で 倒れ、生活保護を利用することに。頼りにしていた次女も昨年一一月にがんが見つかり、今は二人とも入院中です。
 冬は諏訪湖が凍る寒さ。Bさんは壊れた石油ストーブをたたいて動かします。一カ月の食費はAさんと同じ二万円以下。髪は近所に住む孫に切ってもらい、被 服は下着がだめになった時だけ数年に一度、量販店で買っています。
 調査項目にあった「『こういう生活がしたい』と思うことは?」との質問に、「返すものを返して、すっきりしたい」とBさん。家賃や医療費の滞納が残って おり、質問の趣旨である娯楽や趣味には考えが及んでいませんでした。
 Bさんは生活扶助費の削減について「減らされた分はそのまま響く。食費を削るしかない」と語りました。ぎりぎりの生活が、さらに追い詰められています。

「いのちに“条件”はない」

 県連では調査の目的に「自己責任論を乗り越え行動する職員の育成」も入れました。SW以外 の職種も参加し、受給者の生活にふれることを重視します。県連SW委員長でもある鮎澤さんは「情勢を頭で分かっていても、肌で感じないとなかなか行動には 結びつかない」と指摘。「ただ、私たちは受給者の苦しい生活を見せてもらって終わりではないことも、強く意識しています」と話します。
 この日、鮎澤さんには二歳と七歳の子どもを持つ三〇代の男性の相談が入っていました。就職活動で車が手放せず、生活保護を受けられません。灯油代にも事 欠き、下諏訪町の「生活つなぎ資金」を借りに町役場に同行しました。
 担当課は保証人がいないことを理由に貸付を渋りました。「この寒さの中で、暖房がなければどうなりますか。幼い子ども二人を見殺しにするのですか」。鮎澤さんは食い下がりました。
 「いのちに“条件”はありません。たとえ患者さんがどんな人でも、救わなければならない。そのために生活保護があります。生活保護の縮小は、“亡くなっ ても仕方ない命がある”と国が公式に認めること。許せますか」。

(民医連新聞 第1565号 2014年2月3日)