軽度者切り捨て 利用者負担増 こんな介護保険「改正」許してはいけない
社会保障制度改革推進法の具体化を検討していた社会保障制度改革国民会議は、七項目の介護保険制度改革を提言しました。介護の 「効率化」と「重点化」をキーワードに、目を疑いたくなるような給付削減と負担増を提示。八月末に再開した厚生労働省の社会保障審議会介護保険部会を経て 二〇一四年に介護保険法改正法案を通し、一五年の介護報酬改定にあわせて施行するシナリオです。これに対し、抗議の声もあがり始めました。利用者や家族、 介護事業所に加え、自治体からも。「改悪」の概要とともに紹介します。(木下直子記者)
給付を抑え負担を増やす改悪案が提示された
給付(介護保険で提供するサービス・介護費用の支給)に関して提示された見直しは三点。
一つめは、要支援認定者への介護予防サービス(予防給付)を、市町村の事業「地域包括推進事業(仮称)」へ移行すること。軽度者は介護保険のサービス対 象から外すという意味です。この事業に関しては、全国一律の規定はなく、介護内容や運営基準、利用者負担などすべて市町村の裁量にまかされます。懸念され るのは介護の質の低下や自治体間格差です。しかもケアの主力として想定されているのは、ボランティアです。
二つめは「施設給付の重点化」。特別養護老人ホームの新規入所を要介護3以上の中重度に絞る、という内容です。要介護1、2の特養入所者の入所理由は 「介護者不在」や「介護困難」が六割、「認知症」が二割というデータも(全国老人福祉施設協議会)。行き場のない介護難民の増加は必至です。
なお利用者や施設から噴出した異論を受け、厚労省は直近の介護部会で「重度の認知症であれば、介護度1、2の人でも入所できる」と修正しましたが、これはあくまでも「例外」で、原則は変えていません。
三つめはデイサービス。「重度化予防に効果のある給付に絞る」とされました。家庭で介護する家族のささえとなっているのが通所介護です。その頼みの綱が 縮小される恐れが。また小規模デイサービスは、大規模デイのサテライトになるか、地域密着型サービスへの移管が提案されました。
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負担の見直しに関する提案は四点(図参照)。
「一定所得以上」の利用料引き上げが提案されました。「一定所得」については「合計所得金額一六〇万円・年収二八〇万円」とするか「合計所得金額一七〇万円・年収二九〇万円」とするかの二案ありますが、全利用者の負担を二割に上げる突破口とみられます。
また、「補足給付」の要件も見直し。施設入所する低所得者向けの居住費や食費の軽減制度ですが、この要件を所得だけでなく、貯蓄や不動産資産、世帯分離した配偶者の所得まで勘案するよう求めました。
現場からの反論 職員、利用者、市町村も声
二〇一四年の通常国会で介護保険法改正法案を通し、一五年の介護報酬改定とともに施行がねらわれています。軽度者を切り、利用者負担を増やす容赦ない改悪に、現場は黙っていません。
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軽度者から公的介護サービスを奪えば、どれほどの打撃を与えるか―。要支援と認定された人は約一五〇万人おり、このうち九六万人が介護予防サービスを利用中です。障害や重い病を抱えている人も少なくありません。
全日本民医連は、影響を可視化し、社会に訴えようと「予防給付見直しによる影響予測調査」にとりくんでいます。「予防給付を使ってやっと生きている利用 者をどうするのか。国は実態を見ていない」「介護サービスが入って要支援の状態を維持している。外せば介護度が重くなってしまう」―。全国から続々と寄せ られている調査票は、介護職員たちのこんな声であふれています。
独自に調査を行い、発信している地域も(北海道、岐阜、三重、広島など)。広島市域の介護事業所は要支援1、2の利用者約一〇〇〇人にアンケート。介護 保険利用の経緯や利用して改善したこと、利用料負担、軽度外しへの意見などを聞きました。介護保険の利用が健康維持や回復、生活不安の改善に大きく役立っ ていたり、閉じこもりや孤立を予防していることが分かりました。軽度外しについては九一%が「困る」と回答、利用料については現在でも「負担」と感じてい る人が四六%いました。
「『軽度者だから支援は不要』という考えは間違い。高齢者から生活の糧・いのちの絆を奪わないでほしい」。結果を受けてまとめた提言にはこう記しました。
長野では、五〇〇人を超える県民介護大集会を開催(下)。民医連や労組などに加え、「認知症の人と家族の会」も入った実行委員会でとりくみました。
予防給付の見直しには、自治体からも疑問が出ています。東京・多摩市では、要支援者への介護サービスの継続と財源確保を求める国への意見書が全会一致であがっています(六月市議会)。
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全日本民医連は「法案をつくらせない、国会に上程させない」を当面の焦点に、改悪阻止の介護ウエーブを呼びかけています。重視しているのは、自治体に国への意見書提出を働きかけることや、利用者や家族など「当事者」の運動への参加です。
つぶてのように声を国にぶつけて
長野・介護大集会
「患者会や町内会、あらゆる単位で、介護保険の改悪はやめて、という国あての意見書をつぶ てのように出しましょう」。一一月二日、長野県で開かれた「だれもが安心の介護保険を求める県民大集会」で、基調講演を行った勝田登志子さん(認知症の人 と家族の会全国本部副代表)は、五〇〇人の参加者にこう呼びかけました。
勝田さんは、厚生労働省の社会保障審議会介護保険部会の委員です。効率化を主張する有識者らを相手に、利用者代表として孤軍奮闘する様子も交えながら、 国民会議の最終報告書が示した介護保険法改正の問題点を解説しました。認知症に関しては「認知症は要介護認定では軽度に判定されるが、介護の必要度は高 い。初期の段階で専門的な介入があれば重度化を防ぐことができ、介護にかかる予算も抑えられる」と、軽度者外しの矛盾を指摘しました。
そして今回の改正方針について「すべての国民に生存権を保障した憲法二五条に違反する改悪です。また同条二項は、国に『社会保障の増進につとめよ』と記 してあり、今回の後退方針はそれにも反している。皆さんはここで聞いたことを地域に戻って広げてほしい」と呼びかけました。
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勝田さんの講演に先立ち「現場からの報告」として利用者家族、介護職員、自治体担当者の四人が発言。父親が認知症を発症し休職して介護にあたる男性(五 〇代)は、貯金を切り崩しながら行うシングル介護の厳しさにふれ「介護保険はいまも不十分だが家族には命綱。これ以上改悪されたら、ギリギリの精神状態で がんばる家族の心が折れてしまう」と訴えました。
介護職はヘルパーとケアマネジャーの二人が「高齢者の尊厳や介護する家族の生活の質が守られる介護制度に」と発言しました。
自治体の介護担当課長は、軽度者向けサービスが市町村事業に移行された場合、財源やサービス提供者の確保、個人負担をどうするかなどの懸念点を多くあげました。そして、市長会を通じて国に財源の確保などを要望していることを報告しました。
(民医連新聞 第1560号 2013年11月18日)